第12章 織田家の姫君
「お前が秀吉に
殴られた辺りからだ」
光秀が神妙な顔で言う
家康は黙って俯いたままだ
一瞬眉を潜めると
「…なら話は早い
そういう訳で
白雪は男を恐れる
不用意に近付くな」
そう告げて部屋を
出て行こうとする
その手を家康が掴んだ
「その顔で白雪のとこ
戻るつもりですか?」
「……」
自分の顔を
確める様に触れ
表情を歪めた
「…来てください」
「悪い…」
部屋を出ようとすると
秀吉が声をかけた
「政宗…すまなかった
思わずかっとなって」
政宗が諦めた様に笑う
「俺がお前なら…
斬りかかってた」
「っ…もう自分を責めるな」
政宗は背を向けたまま
分かったとでも言うように
腕をあげて見せた
光秀が哀しげな
笑みを浮かべて
政宗に代わる様に呟く
「それが出来るならな…」
壁を薬棚が埋める部屋で
家康が政宗の手当てをする
「顔はとにかく
冷すしかないんで
口ん中切れてますよね…」
ひとり言の様に
ぶつぶつ言いながら
薬を調合する
「……白雪を襲った男
どうしたんですか?」
濡らした布で頬を
冷やしていた政宗が
顔をあげる
「あ?……あぁ覚えてねぇんだ」
「はっ?」
家康が目を瞬かせる
「気が付いたら
返り血浴びて突っ立ってた」
唖然と政宗を見て
盛大に溜息をつくと
「返り血ってことは
覚えてなくても殺したって事ですね」
「そうらしいな」
「以外です
何があっても我を失う程
動揺する事なんて
無い人と思ってましたよ」
「俺もそう思ってたよ」
「…だから言ったんです
自分にとって白雪が
何なのか真剣に考えろって」
呆れた顔で言う
「骨身に染みるな」
「……殴られた時…頭打ちました?
素直で気持ち悪いんですけど」
「なんだよ…つれないな」
政宗の言葉を無視して
手元に視線を戻す
「はい…これ
腫れが少しはましになるはずです」
いくつかの薬草を磨り潰した物を
小さな壷に詰めて手渡す
「悪いな」
「鎮痛薬は…」
「痛み止めは嫌いだ
思考が鈍る…知ってんだろ」
「でしたね」
二人で小さく笑った