第12章 織田家の姫君
「こんなもんで許されるなら
いくらでも……殴られてやる」
力無く起き上がり
秀吉を仰ぎ見る
「…お前が付いていながら
…どうして」
「俺は産まれた時から
伊達家嫡男の身だからな……」
唇の血を拭い
片膝を立て座ると
苦く笑った
「惚れた女と一緒になるのも
そう簡単じゃない…」
秀吉は
その言葉にはっとした
武家の婚姻は
家と家を繋ぐ事
武家の嫡男として
生を受けた以上は
相応の武家との
結び付きを担うべきだ
「お前…許嫁が?」
「あぁ…父上が生前に
親戚筋と交わしたものだ」
政宗がその婚姻を
望んでいない事は
秀吉にも分かった
「白雪は…知って?」
「知っていた…それでいて何も言わず
側室になる覚悟を決めていた」
秀吉の脳裏に
いつか自分の部屋で
"未来では側室はなく
好きな人と添い遂げるのが普通
自分も好きな人のお嫁さんになりたい"
そう言って頬を染めた
白雪の姿が浮かんだ
「あいつ…そこまでお前を…」
「そんな事も知らず…
俺は春には白雪を娶る
つもりで準備をしてた
驚き喜こぶ顔を想像して……」
「白雪様はそうとは知らずに
側室になる覚悟をお決めに
なっていたのですね」
三成が悲しげに瞳を伏せた
「…婚儀の話を白紙に戻す為
話し合いを設けた日に
許嫁だった娘と庭で鉢合わせ…
白雪は俺の婚姻が決まったと
勘違いしてそのまま城下へ」
「そんな…」
「俺が悪かったんだ…
自分の気持ちを優先させて
白雪の心をちゃんとみてやれなかった」
項垂れる政宗の姿に
胸を痛める二人
「駆け付けた時…
男に押さえ付けられて
犯されそうになってた
俺が叫んだのとあいつが
喉を突いたのが同時だった」
「えっ…」「なっ…」
二人は絶句する
「情けないよな…
自分で自分が許せない」
「っ…政宗…」
秀吉はギリリと何かを耐える様
歯を食い縛る
三成は俯き下唇を噛み締めた
「あれ以来白雪は
男を恐れるようになった
さっき見たろ…震え泣き叫び…」
政宗が爪が食い込む程
拳を握り締めた
「っ…分かった…もういい……」
三成が清潔な手拭を
そっと差し出す
「……気持ちだけ貰っとく」
政宗は受け取らず
立ち上がると襖に手をかけた
「っ…‼」
驚きに声を失う
そこには
光秀と家康の姿があった
「お前ら…いつからそこに」