第12章 織田家の姫君
「政宗様!いかがされましたか!」
騒ぎを聞きつけた家臣が
駆け戻ってくる
「ほら!立って!お行きなさい!」
喜多が男を引っ張りあげて
追い払う様に急き立てる
あれよという間に
茶屋の裏へ追いやられ
男は一人ぽつんと取り残された
「おぅ お前ら戻ったか」
政宗は
何事もなかった様に
のんびりとした様子で
家臣を迎えると
大きな野良猫が
白雪の団子を
盗んで逃げたと
説明して笑った
その日の夕暮れ
大地に広がる緋色の花と
夕焼けに染まった
空の境が溶ける様に
辺り一面が茜に染まる
町はずれの橋の上
欄干に腰掛けて男は
じっと手を見ている
白雪と呼ばれる
美しい女の言葉が
耳から離れない
奪う事ばかり繰返し
何かを造り出した事の無い
己の手が忌まわしい物の様に
感じられ思わず身震いした
手の平に置かれた
金を小さな布で
丁寧に包み懐に仕舞う
男は空と同じ緋色の瞳で
真っ直ぐ前を見て歩き出す
二度と戻らぬと誓うように
振り向きもせず……
その日の夜
宿の部屋で
簡素な食事を終え
政宗は
白雪の膝に頭を乗せて
穏やかな時を過ごしている
「……なぁ 白雪」
「なぁに?」
ゆっくりと
髪に指を通す様に
政宗の頭を
撫でる白雪
不敵な笑みを浮かべて
長い指を白雪の頬に伸ばすと
「この世で
一番綺麗な手に
抱かれるのはどんな気分だ?」
「っ………もぉ」
白雪の白い肌が
甘い声と共に
政宗の手によって
紅に染められていく