第12章 織田家の姫君
「ギニャァーー」
…ドンッ!
「待て!この泥棒猫めっ」
ガシャーン!
「ヴニャァァーーー!」
「きゃあっ」
「おっと」
カシャン!
「あっ」
「白雪様っ」
突然 丸々と太った大きな縞猫が
白雪達めがけて突進してきたのだ
それを追うように
飛び出してきた黒髪の男が
白雪と喜多の直前で止まる
食べかけの団子をくわえ
背中を丸め臨戦態勢の縞猫と男が睨み合う
「今日という今日は
取っ捕まえて三味線にしてやるっ」
「ギニャーーーー‼シャーーーッ‼」
男が手に持った
棒切れを振りかざし
白雪が見ていられないと
目をつぶった瞬間
縞猫は踵を反し
猛然と走り出した
「あっ…」
喜多が思わず間抜けな声をあげる
「こっこら!待ちやがれっ」
男が猫を追って走りだそうと
身構えた刹那
政宗が音もなく抜刀し
男の喉元に刀が突き付けられた
「くっ…」
男が息を止め政宗を見る
「えっ?なっなに?」
眼を開けた白雪は
訳が分からず困惑する
政宗の行動の
意味を悟った喜多が
白雪と自らの懐を確める
「喜多さん?」
「喜多! でございます」
白雪をじろりと睨み
一喝して政宗に向き直る
「二人とも財布がありません」
政宗がにやりと笑った
「ほぅ…これはたいした泥棒猫だな」
男はごくりと唾を呑んだ
武士に狼藉を働いたとなれば
斬り捨てられても
文句は言えぬ
男に出来るのは
覚悟を決めるか
どうにかして逃げおおすか…
選ぶ道は二つに一つ
政宗の刀が陽光を弾き
視界を白く覆う
男は…覚悟を決めた様に
長い溜息をついて
ドサッとその場に胡座をかいた
「悪かったな…泥棒猫で」
袂から二つの財布を取出し
地面に放り投げる
逃げる気がないと知った
政宗が刀を緩めた
「いつの間に…っ酷い…泥棒なんて」
白雪は驚いたり怒ったり
一人百面相を始める
「白雪はともかく
喜多に気付かれないとは
お前なかなかいい腕だな」
政宗が面白そうに男を眺めた
「切っ先を突き付けといて
何いってやがる
殺るなら早く殺ってくれ
それとも怖じ気付いたか」
男はそう言って
胡座をかいたまま睨み付ける
盗みを見咎められ
今まさに殺されようというのに
命乞いする事もなく
捨て台詞まで吐くとは
なかなか肝が据わっている
みればまだ十五~六の若造