第12章 織田家の姫君
長月に入り
馬上を吹き抜ける風が
冷たく感ずる
政宗達が安土へ向かい
四日目が経っていた
政宗に身を寄せた白雪が
思わず身震いする
「…寒いか?」
肩にかかる羽織りを
白雪の方に引き寄せ
身体ごと腕に包む
「ありがとう…でもこれじゃ
政宗に風が当たるよ」
「返って気持ちがいい」
風を受けるように
身体を真っ直ぐ正面に向ける
「もぅ…」
衿元をぐいと引かれ
白雪を覆うように
倒れそうになる
「おっと……」
馬に手をつき
体勢を立て直す
「政宗が風邪ひいて倒れたら
誰の馬に乗ればいいの」
拗ねたように
唇を尖らせる白雪
可愛らしい仕草に
唇を重ねようと
顔を寄せた時
「その時は
喜多の馬にお乗り下さいませ」
いつの間にか隣に馬を並べ
口元に笑みを浮かべた喜多が
ちらと視線を寄越す
袴姿で馬を操る喜多に
白雪が溜息を漏らした
「私もあれ位
乗りこなせたら良かったのに」
「充分だろ
歩く程度ならな」
口付けを邪魔された政宗が
不機嫌な顔で言う
「一緒に走れなきゃ
意味がないの」
「お前には
俺がいるんだから
そのままでいいんだ」
白雪を
風から守る様に抱き直して
当然の事の様に言う
「政宗って……」
不服げな白雪に
憮然とした顔を向ける政宗
「なんだ」
「……」
一瞬言い淀んだ白雪に
代わる様に喜多が答えた
「過保護」
突然聞こえた喜多の声に
政宗が僅かに眼を見張る
「っ……悪いか」
じろりと睨む政宗に
涼しい顔の喜多
「喜多さんの言う通り
あんまり甘やかして
後が大変になっても知らないよ」
「お前の
面倒くらい片手で足りる」
「うーんと
我が儘してやるから」
「ははっ…そりゃ楽しみだな」
「もぉ…」
時に景色を楽しみ
時に馬を走らせ
白雪や喜多の様子を見て
歩みを調整しながらの旅
これまで
家臣を置き去りに
馬を飛ばして走った道も
今では違った景色に見える
「あっ彼岸花」
白雪の指差す方に眼をやれば
あぜ道に緋色の帯が
鮮やかな風景を作っていた
「綺麗…」
「あぁ……綺麗だ…
あれが咲いてるなら
人里が近そうだな」
「え?そうなの」
「なんだ知らないのか?」
「自生してるのかと思ってた」