第11章 意地悪な花婿
白雪達が話に
花を咲かせている頃
政宗は愛する人の為
包丁を振るっていた
捕らえた獣を捌き調理する
外では一緒に行った家臣達が
解体作業に取り組む
血生臭い作業は任せて
白雪の為に兎汁を
こしらえる事にした
骨で出汁をとり
丁寧に灰汁を取る
眼を輝かせて食べる
白雪を想像すると
つい顔がほころぶ
そんな自分も悪くないと
思ってしまう自分が
可笑しくなる
安土では白雪が
政宗の悪影響を受けたと
散々揶揄されていたが
政宗もしっかり
白雪の影響を受けていた
(俺も甘っちょろくなったな)
「どうしたの?にやにやして」
白雪が不思議そうに
政宗を見ながらやって来た
「そろそろ
お前が来る頃だと思って」
近づいて来た白雪の
腰に手を回し自分の前に
抱きいれる
とたんに白雪の甘い香りに
くらくらした
細く白い首筋から
漂う香りに顔を埋め酔う
「政宗?」
「手伝えよ」
「あ…うん 大丈夫?疲れた?」
「まさか
お前の包丁捌き見てやるよ」
「花嫁修行に
料理の項目はなかったよ」
「今作った ほら持て」
「もぅ…」
白雪が包丁を手に
野菜を切っていく
後ろから腰に手を回し
肩に顎を乗せて
包丁を振るう白雪の
手元をじっと見つめた
トントントンと包丁が
小気味良い音をたてる
「いいな…こうゆうの…」
「うん?…ふふ」
「そもそも刃物は
こーゆう風に使われるべきなんだ」
「……政宗」
「刃物は
人を傷付ける為でなく
こうして 共に生きる者の為に
使われるべきなんだ…」
腰に回した腕に
ぎゅっと 力が込もる
「散々 人を殺めてきた
俺が言っても……」
政宗の武骨な剣士の手に
白雪の華奢な手が重ねられる
「信じてる……政宗が作る未来も
政宗の心も…信じてるから」
「……こっち向け」
「……駄目」
政宗が眉を潜める
「却下だ」
「あっ」
顎を引き寄せ呼吸ごと奪う
「んっ……っふ……」
「…………」
いつか必ず
刀を使わずとも
笑顔を護れる日々が来る
城が権力の象徴でなく
平和の社となり
穏やかで豊かな国の象徴となる
愛する者を腕に抱き
仲間達と膳を囲み
餓えることも
苦しむことも
悲しむこともない
笑って暮らせる世の中に
必ずしてみせる
白雪となら 叶えられる
何の確証もないが
不思議とそう思える