第11章 意地悪な花婿
「ありがとうございます……」
厳しく教えを受けた後の
思わぬ態度に
喜多の優しい一面を
垣間見た気がして
気になっていた事を
思いきって言ってみる
「あの……」
「なんでしょう?」
「今度 政宗の小さい頃の事
聴かせて貰ってもいいですか?」
思いもよらぬ申し出に
一瞬きょとんとした
表情を見せたが
次の瞬間には
満面の笑みを広げ
白雪の申し出に応える
「政宗様には秘密ですよ」
片眉を上げてニヤリとする
政宗とおなじ笑い方に
思わず吹き出す
「ふふっ…笑い方 政宗と一緒ですね」
「まぁ そうですか?」
反応まで同じで
また笑う白雪に
喜多もつられた様に笑った
政宗を通して
二人の距離が
近くなった様な気がして
白雪は嬉しくなる
内緒話の
約束を取りつけて
うきうきと
部屋に戻って行く白雪
そんな白雪の背中を
眩しい物でも見るように
目を細めて眺める喜多だった
夕餉の支度が整ったと告げられ
政宗が部屋へ向かうと
文机に
寄り掛かる様にして
白雪が居眠りをしている
見れば字の練習を
していた事が窺え
書き損じて丸められた物を
そっと広げると穏やかな笑顔になる
健気に花嫁修業に
励む姿が 可愛くて仕方ない
そっと頬を撫でると
白雪が身動いで
目を覚ました
「……政宗?…あれ…寝ちゃってた?」
「あぁ 俺が来た時には
ぐーすか いびき掻いてた」
「うそっ!」
目を真ん丸にして
両手で口を隠して
あまりにも思った通りの
反応に嘘をついたのが
申し訳なくなる
そんな政宗を見て
白雪が唇を尖らせた
「もぉ!また
からかったんでしょう?」
悪い 悪いと 謝りながら
頭を撫でると
冷めないうちにと
夕餉の膳に手を伸ばす
椀はまだ暖かく
白雪が眠っていたのが
ほんの僅かな
時間だったのが分かる
「疲れてるんだろ 飯食え…」
「うん…腕が重いよ」
「なら…喰わせてやろうか?」
「結構です!
もぉ~からかってばっかり」
政宗が半分本気とは
知らずに白雪は
自分の椀に箸を付ける
食べながら
お互いの報告をする様に
一日の出来事を話す
そんな何でもない事を
政宗と出来る事が
何より嬉しくて
細やかな幸せに
桃色気分の白雪
政宗に食後のお茶を
用意する時ですら
特別な事の様に心が弾んだ