第11章 意地悪な花婿
久方振りに
喜多を城に迎え
青葉はにわかに忙しくなる
普段は
自由を好む政宗の元
時間に縛られることなく
その日の仕事に
取り組んでいた女中達
各々が
与えられた仕事をすると
白雪の部屋で お茶と
お喋りを楽しむのが
日課の一つとなっていた
お蔭で白雪の部屋は
いつも賑やかな
笑い声に溢れている
喜多が来て
そうは行かなくなった
朝からてきぱきと
仕事をこなし
昼餉の支度が済むと
自分達も簡単な食事を摂る
午後から白雪と共に
薙刀の稽古を付けると
言い渡されているのだ
喜多が乳母として
仕えていた頃は
日課であった薙刀の稽古も
政宗の母が出家して
政宗も不在となり
いつしか行われなくなっていた
城主の妻なら武術は必至と
喜多は高らかに宣言する
「旦那様が戦場に向かわれている間
この青葉を守るのは妻の務めぞ」
戦国の世 男達が戦の間
敵軍に攻めいられれば
城主の妻が
城主として戦う事になる
白雪と若い女中達は
嫌という程しごかれて
膝が笑い 真っ直ぐ立つのが
辛くなる頃に
ようやく自由の身となった
むろんその後
女中達は夕餉の支度など
各々の仕事をこなすべく
息も絶え絶え 散り散りに
廊下へ消えていく
畳にへたり込んだ白雪は
「白雪様にはこれから
礼法を学んで頂きます」
と引きずられる様に
連れて行かれる
襖の開閉に始まり
袱紗の扱いや 風呂敷の扱い
歩き方からお辞儀の作法まで
武家の礼法を
徹底的に仕込まれる
「よろしい 今日のところは
これまでに致しましょう」
喜多から
待ち焦がれた
この一言を聞いたのは
空が茜に染まる頃だった
心身共にみっちり
仕込まれ くたくたの白雪
心からほっとして
喜多に礼を言う
「ありがとう ございました」
「やっと終わる ほっとした」
「えっ?」
「と 顔に書いてありますよ」
肩を揺らして
苦笑いする喜多の言葉に
カアッと顔が熱くなる
「っ…すいません」
言い当てられ
小さくなる白雪を
愉快そうに笑って
「明日からも続きますから
そう気構えずに
楽しみながら
覚えていきましょう」
そう言って白雪の背中を
そっと撫でた