第6章 馬術
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「ジャン。ミサキを見なかった?」
夜飯を食い終え、男子寮で各々が寛ぐ中、便所に行こうと部屋を出た俺に、後ろから掛けられた声。
振り向くと、羽織りを持ったミカサの姿。
「ミサキ?見てねぇが、部屋にいねぇのか?」
「外に出て来ると言って、帰って来ない。」
不安気に揺れるミカサの瞳。
俺は小さく溜息を吐き、片手を上げた。
「探して来るから、部屋に戻っててくれ。」
ミカサが持っている羽織りを受け取り、ミサキが行きそうな場所に思考を巡らせる。
……ミサキが行くっつったら、あそこしかねぇだろ。
辺りはもう真っ暗になっちまってんのに、あいつ何してんだ?
もしもの事があってからじゃ遅いっつーのに、危機感が足りないとしか思えねぇ。
俺を見たままのミカサから視線を外し、身体の向きを変えると、俺はいつもの湖に向かい、歩き出した。
兵舎から離れ、暗い夜道を進みながら考える。
なぜこんなにも俺はミサキに惹かれているのか。
よりにもよって、身元が分かんねぇ相手に。
あいつは俺の気持ちなんか全く分かってねぇのに。
なんで俺はミサキの事になると放っておけねぇんだ。
出会ったあの時、見捨てることだって出来た。
(……つくづく、焼きが回っちまったぜ。)
心中で、自分の行動に悪態をつきながら、それでも向かう足は止まらない。