第33章 シルキー
「ほんっと、人使いが荒いんだよなぁ…姉ちゃんは…」
仕事中、姉ちゃんから電話がかかってきた。
なに事かと思って出たらなんの事はない、俺に買い物をして来いとの半命令的なお願い。
万が一にでも断ろうもんなら『冷たい男、これだから彼女の一人も出来ないのよ』と1週間以上グチグチと言われることになる。
そういう姉ちゃんだって30歳を目前にして独り身でいるクセに…
はぁ~、なんで姉ちゃんの弟になんて生まれて来たんだろう…
今更どうにもならない現実を恨みながらトボトボと目的地へ向かう。
大体自分で買い忘れてたくせに俺に行かせること自体おかしいだろ。
週末まで買いにいけないからってなんで俺が仕事帰りに寄らなきゃいけないんだよ。
姉ちゃんから送られてきた住所と店の名前を手掛かりに目的の店を探した。
「あ、ここか…」
『Healing』
スキンケア商品の専門店。裏路地にある人目に付きづらい小さな店。
姉ちゃんが言うにはここ以外では買えないって言ってたけど、ボディークリームなんてどこで買っても一緒だろ。
ドアを開け店内に入ると商品を見ながら話している客らしき30代くらいの女性が2人と若い男性が1人…あれ?店員がいない?
店の中をキョロキョロしていると唯一いた男性が俺の方に振り返りニコッと笑いかけてきた。
その笑顔にドキッとした…
綺麗で優しい笑顔…でもなんで俺に笑いかけて来たんだ?
「いらっしゃいませ、何かお探しですか?」
えっ?店員さん⁉こういう店って女性店員のイメージしかなかったのに。