第32章 麗しのキミ
「それってその人より智さんを選ぶってこと?」
もし翔さんが智さんに恋愛感情を持ったら俺、翔さんに敵わないんじゃ…
「そんな不安そうな顔するなよ。智にはほんとに恋愛感情はないよ。
でも大切な存在ではある。その大切な存在を助ける為に取ってる行動がちょっと特殊なだけで…その事を理解してくれるような相手を俺は選んだつもり。
俺はアイツを愛してるし、アイツも俺の取ってる行動を含め俺を愛してくれてる。
でももし、万が一にでも俺のしていることをアイツが苦痛に感じるのなら一緒に居ても不幸にするから、だったら別れてやった方がアイツの為ってだけだよ」
やっぱり俺はまだまだ翔さんの足元にも及ばない。
智さんのことも大切、恋人のことも大切…今までそのふたりを不幸にすることなく過ごしてきたんだ。
翔さんの気持ちが智さんに向いたら…なんて小さな事考えてるようじゃ智さんを支えて行けない。
なにがあっても自信を持って智さんを愛し続けよう。
「翔さん…俺、翔さんが智のこと心配しないで済むくらい智さんのこと大切にするから」
「おう、ってかこの前も言っただろ?潤だから安心して智のこと任せるんだぞ?自信持てって」
「うん。翔さんの期待裏切らないように頑張るよ」
「まぁ、あんま気負うなよ…あくまでもお前と智は恋人同士なんだから、俺の立場とは違う。
お前は智のことを目いっぱい愛してやればいいんだよ」
「それなら大丈夫だよ、翔ちゃん。潤は若いから翔ちゃんより元気だし、眉毛が濃いからそうだとは思っていたけど精力も強いし…ね?潤」
ニコッと俺に笑い掛け天然的発言をする智さん。
そんな笑顔で『ね?潤』って問われても…どう返事すりゃいいんだ。
「はははっ…だとさ、大変なのに捕まったな潤。お前がまず心配するのは自分の体力だな」
ニコニコと俺の顔を見あげる智さんが羊の皮を被った狼に見える。
「…頑張ります」
ま、いいんだけどね。
初めて逢ったあの時から俺の心を奪った麗しの君…
その君がこの先偉大な画家となる為に俺の『愛』を嫌ってほど注入してやる。
だから智さんは安心して作品を作り続けてよ…俺の熱はマグマのように尽きることはないんだから。
End