第32章 麗しのキミ
今日は智さんのアトリエで作業する様子を見せてもらうことにした。
翔さんが言うように智さんの中の炎を引き出すならそれを作り出す姿を見ないと。
「ほんとにいつも通りでいいの?」
智さんは少し戸惑ってるようだった。
「うん、俺がいると思わなくていいよ?好きに作業して?」
「でも、僕絵を描き始めると何時間も黙っちゃうよ?」
「それでいいよ。作品作りに没頭する智さんの姿を見たいから」
「潤がそれでいいって言うならいいけど…でも飽きない?」
「飽きないよ、この前公園で会った時も俺ずっと智さんのこと見てたんだよ?」
「ずっと?途中他のことしたとかないの?」
「ないない、ずっと見てただけ」
「そうなんだ…翔ちゃんは付き合いきれないって違うこと始めるから。
アトリエで作業するときは基本来ないし」
「翔さんは色塗り作業を見ないの?」
「うん、ほぼ見たことないんじゃないかな?でも、終わったって連絡すると俺の息抜きに来てくれる」
「そうなんだ…でもまあ俺のことはほんとに気にしなくていいから、いつものように作業して?」
「うん、わかった…」
ふにゃっと笑った智さんは絵が描かれてるキャンバスと絵の具を用意し椅子に座った。
絵筆を持つと一気に雰囲気が変わる。
この前の公園でスケッチしていた時とはまた違った空気感。
その瞳の中には静かな炎が宿り、体からは熱が放出されているのが見てとれるほどのオーラ。
智さんのエネルギーがキャンバスの上に乗り移って行くように次から次へと躊躇なく色が塗られていく。
その凄まじいとさえ言える姿に思わず息を飲んだ。