第29章 可愛いアナタ
壁についていた腕とガクガクになっていた脚から力が抜け崩れ落ちそうになる翔ちゃんを背中から抱き留めた。
「大丈夫?翔ちゃん」
「ふぁ、ん…も、ダ、メ…」
ぐったりと俺に凭れ掛かる翔ちゃんを湯舟に入れ一緒に浸かった。
「少し温まったら出ようね?」
「ん…」
もう半分夢の世界に入り始めてしまった翔ちゃん。
相当疲れたんだろうな…明日が土曜でよかった。
「翔ちゃん、出よ?立てる?」
「立てない…雅紀、抱っこぉ…」
「ふふっ、いいよ」
湯舟から出ると翔ちゃんに向かって両手を広げた。
「おいで?」
嬉しそうに笑って俺の首に腕を回ししがみつく。
翔ちゃんを抱き上げ脱衣場に下ろしバスタオルで身体を拭いた。
「これ着て?そしたら部屋まで連れてってあげるからね」
「うんっ」
翔ちゃんはいそいそと着替えを済ませ、俺の着替えを待ってる。
「さ、行こうか。どうする?自分で歩ける?」
「歩けない」
笑顔でそう答えさっきと同様に両腕を俺の首に巻つけた。俺は翔ちゃんを抱き上げて翔ちゃんの部屋に運んだ。
ベッドの上に翔ちゃんを下ろし掛け布団を掛ける。
「それじゃ、おやすみ…」
慌てて起き上がった翔ちゃん。
「えっ!雅紀行っちゃうの?」
「え、うん。駄目だった?」
「駄目…一緒に寝ようよぉ」
捨てられた仔犬のような目で俺を見上げる。
この目で見られて断れる奴いるのかな?
「いいけど蹴飛ばさないでよ?」
「雅紀がギュッと抱きしめてくれれば大丈夫!」
「ふふっ、オッケー」
俺は布団を捲り潜り込むと翔ちゃんの頭の下に腕を入れ抱きしめながら眠りについた。