第29章 可愛いアナタ
それがなぜふたりきりになったかと言うと、翔ちゃんのご両親が交通事故で亡くなったから。
俺がこの家に来て1年ほど経ったある日。海外出張に行っていた叔父さんを叔母さんが空港まで車で迎えに行った帰り、パトカーに追われていた不審車両が対向車線から飛び出して来て正面衝突…
ふたりは即死だった。
仲の良かったご両親…そのふたりから愛情をたっぷり込められて育った翔ちゃんはとてもショックが大きかったと思う。
それなのに翔ちゃんは毅然とした態度で目を赤くしながらも涙を流さず葬儀を終わらせた。
でもその姿が反って痛々しくて…葬儀が終わった夜、母ちゃんが俺に
「翔ちゃん…皆がいる前では気を使って泣けないだろうから、今日は雅紀も家に帰ろ?」
って言ったんだ。俺も最初はそう思って駅まで両親と帰ってきた。
でも、翔ちゃんがひとりで泣いてると思うとほっとけなくて
「母ちゃん、やっぱり俺翔ちゃんのとこ戻るわ」
そう言ったら母ちゃんが優しく微笑んで
「そうね…雅紀だったら大丈夫ね。行ってあげなさい」
その言葉を聞くと同時に駆け出した。
一刻も早く翔ちゃんのところに行ってあげたくて。
玄関の鍵は閉まってて、合鍵を貰っていた俺はそれを使って玄関を開けた。
家の中は真っ暗でどこに翔ちゃんが居るのかわからなかった。
まずリビングの灯りをつけ、姿が無いのを確認して2階に上がる。
翔ちゃんの部屋のドアをノックして声を掛けた。
「翔ちゃん…いる?」
ドアノブを回し少し扉を開けた。