第17章 メガネの向こう側
「いいのか?雅紀そんなことして、俺は知らないぞ?」
「なんで?肩組むぐらいいいじゃん」
「俺は構わんよ?でもあいつはどうなんだろうな?」
翔さんが教室の入り口に視線を向けると俯いたニノが立っていた。
「え?和?なんで?今日来るって言ってなかったよね?」
慌てて翔さんの肩から手を離すとニノの元に駆け寄った。
「俺に相談があるって訪ねて来たんだよ」
「なんで翔ちゃんなの?俺には相談出来ないこと?」
俯いてたニノが顔を上げると相葉ちゃんを睨んだ。
「もう雅紀なんて知らないっ!翔ちゃんの方が良いなら翔ちゃんに付き合って貰えっ!」
ニノはそう怒鳴ると振り返り走り出した。
「え?和?」
呆然と立ち竦む相葉ちゃんに翔さんが苦笑する。
「追いかけてやれよ…」
「え?え?」
「二宮はお前のこといつでも待ってるよ?俺にしか出来ない相談ってなんだか考えてみろよ」
「あっ!うん、わかった…ありがと翔ちゃん」
笑顔を見せ教室から出ていく相葉ちゃんを見送ると翔さんは俺に向き直った。
「おめでと智…良かった、そのネクタイ似合ってる」
「ありがと、翔さん」
そう、今日は大学の入学式…翔さんが入学祝にプレゼントしてくれたネクタイを締め式典に参加し、その脚で翔さんに会いに来た。
「この場所で智とふたりきりで会うの一ヶ月ぶりだね」
「うん、卒業式以来だからね」
「まだ一ヶ月しか経ってないのに懐かしいなぁ…」
翔さんがいつも座っていた場所に立った。俺も絵を描く時の定位置に立つ。
「俺たちのはじまりの場所だしね」
「始めてモデルになった時は智とこんな関係になると思ってなかったよ」
「ふふっ、俺もだよ…翔さん怖かったし」
突然俺の心に住み着いた『氷の女王』…今じゃその面影は全くない。
俺は歩き出し翔さんの前で立ち止まった。相変わらず翔さんの顔には眼鏡が掛けられている。
「俺以外の人の前で眼鏡外しちゃ駄目だよ?」
「うん、わかってる…」
俺は翔さんの眼鏡を外し、春の陽射しのように温かい微笑みを浮かべる翔さんの唇にそっとキスをした。
氷のレンズの向こう側には眩しいくらいに美しい世界が広がっていた。
End