第17章 メガネの向こう側
弁当を食い終わった午後の授業はとてつもなく眠気を誘う。
特に冬場の窓際の席は陽射しがぽかぽかと暖かく昼寝をするには絶好の環境なわけで、寝るなと言うのが無理なんではなかろうか?
「…野」
誰かが俺を呼んでる?
背中をツンツンと突っつかれ眠りの底から意識が浮上する。
「…とし…智!」
ニノの声が俺を眠りから完全に覚ました。
「…んだよ、気持ちよく寝てんのに邪魔すんなや…」
「…大野、気持ちよく寝てるとこ悪いんだが起きてもらっていいか?」
頭の上からニノではない冷ややかな声が聞こえた。
机に突っ伏した状態で寝てしまっていた俺は視線だけ上にあげると数学の櫻井先生が立っていた。
銀縁眼鏡の奥には言葉以上に冷ややかな瞳…
「げっ!」
慌てて体を起こすと櫻井は踵を返し教壇に戻っていく。
俺の方を見ると無表情のままトントンと黒板を指で叩いた。
「大野、この問題解いて…」
居眠りしていた俺にはもちろん解けるはずはない…立ち上がった俺はこう言うしかなかった。
「…解りません」
「はぁ…推薦で大学が決まってるお前にとっては俺の授業なんてどうでもいいんだろうが、まだ受験を控えてる人間がこの教室にはいるんだよ…周りの人間の士気が下がるから申し訳ないが居眠りするくらいなら仮病でも使って保健室で寝ていてくれないか?」
櫻井の言葉が俺の胸を貫いた。
「…すみません、でした…」
「もういい、座って…時間がもったいないから先進める」
俺は授業を妨害しないように櫻井の言う通り大人しく椅子に座った。