第2章 jealousy
今日も大野さんと得意先を訪問した。
商談が終わり、会社に戻るために駅へ向かう。
駅の中へ入ろうとした時…
「さと兄?」
「え?」
大野さんが振り返ると、高校生らしき男の子がこちらに向かって走ってきた。
「あれ?侑李?」
「やっぱりさと兄だぁ」
俺に『ドン!』とぶつかり、隣に立っていた俺を押し退けるようにその子は大野さんの腕にしがみついた。
「どうしてここに?」
「だってここ、僕の高校がある駅だよ」
ニコニコの笑顔で嬉しそうに大野さんに話しかけている。
「あ~、そっかぁ…お前ももう高校生なんだよなぁ」
その子の頭をワシャワシャと撫でる大野さん。
「さと兄は仕事中?」
「おぅ。今、得意先に行ってきた帰り
あぁ櫻井、こいつ俺の実家の隣に住んでる侑李
生まれた時からの付き合いなんだ」
侑李と呼ばれた子が俺の方をチラッと見た。
「櫻井です。大野さんの後輩で、今仕事教えてもらってます」
挨拶をしたが、侑李くんは、にこりともせずに大野さんに視線を戻した。
「こら侑李、高校生になったんなら挨拶くらいちゃんとしろ」
「…はーい」
侑李くんは仕方なく、といった感じで俺の方を見て
「知念侑李です」
とだけ言って、また大野さんに視線を戻す。
「もうしょうがない奴だな…
悪い櫻井、こいつ人見知りなんだよ」
「いいえ、気にしないでください」
「ねぇ、さと兄」
大野さんの腕を引っ張り、大野さんの意識を自分に戻そうとする。
「なんだ?侑李」
「この前、おばさんが、さと兄が全然帰ってこないって寂しがってたよ?」
「母ちゃんそんなこと言ってた?
何時でも帰れる距離だから、逆になかなか帰らないんだよなぁ」
「何で独り暮らし始めたの?
実家からでも会社通えるのに…」
「いつまでも親に頼るわけいかないだろ?」
「でも、さと兄いなくなって僕も寂しいよ…」
「ごめんな?今週末には帰るから、母ちゃんに伝えておいてくれるか?」
「ほんと?帰って来たら、さと兄の部屋遊びに行っていい?」
侑李くんが大野さんの顔を覗き込むように見る。
「いいよ」
「やったぁ、それじゃあ、おばさんに伝えておくね」
「よろしくな」