第10章 最愛のひと
なんで?一緒に死にたかったんじゃないのか?
どうして翔がそんな事をしたのか俺にはわからなかった。
それでも当初の計画通り、翔ひとりが死んだ場合は自殺を装うつもりでいたからこの部屋での俺の痕跡を消し部屋を後にしようとした。
ふと上着のポケットに手を突っ込むと紙切れが出てきた。
開くとそこには見慣れた翔の手書きの文字。
『智へ
智がこの手紙を読んでるってことは俺はもうこの世にいないのかな。
知ってたよ、智が一番愛してるのは俺じゃないってことは。一度も言ってくれなかったもんな『愛してる』って。
それでも俺は智を愛してた。離れてあげることが出来なかった。ごめんな、俺が智から離れてあげられてれば智を苦しめなくて済んだのに。
だから、最後の罪滅ぼし。智は生きて俺の分まで姉さん幸せにしてやって。
智、愛してるよ。
翔』
そっか、お前わかってたんだな…だから『智は何も悪くない』って言ったんだ。
そうだよな、お前が俺の考えてることわからないはずないんだ。いつだって俺よりも俺の事を理解していた。
翔の眠るベッドに戻り翔の横に座った。
「ほんとに頭良いくせに馬鹿だな、お前は…」
翔の柔らかな髪を撫でた。
「俺だってちゃんとお前の事愛してたよ…」
そう愛してた…大好きなねぇちゃんが不幸になるのが許せなくて用意した薬…でも今日、お前に抱かれてるとき、ねぇちゃんも同じ様にお前に抱かれてると思うと何とも言えない気持ちになった。
大好きなはずのねぇちゃんを憎いとさえ思った。この優しい温もりは俺だけのモノなのにって…
だからさ、一緒にいってやるよ…
俺はポケットから小さな包みを出した。カプセルに入りきらなかった薬…捨てなくて良かった。
薬を一気に飲み干し翔にキスをした。
あの世でお前に怒られるかな、なんで来たんだって…でもお前の事だから笑って許してくれんだろ?
「翔、愛してるよ」
最愛のひとへ最初で最後の愛の告白…
翔の優しい笑顔が見えた…
End