第8章 Lovers
「やぁ、無理!智さん!怖い!」
「大丈夫だから…落ち着け、翔」
「やだ!やだ!もうやめる!」
「あ!危ないってば、暴れんなよ…切れるぞ?」
「もうやだぁ…」
「あ~もう、泣くなよ…わかったから…また今度挑戦しような?」
「ごめんなさい…俺が臆病だから…」
「もういいから…ほら、手洗って向こうで休んでろ」
「…やだ、智さんの側にいる…」
「だって怖いんだろ?…魚の目」
「自分で捌かなければ大丈夫…」
「ふふっ、ならいいよ、側にいろよ」
今日は朝から翔と釣りに行った。
釣果として持って帰ったカサゴを調理しようと思ったんだけど、翔は魚だけはいくら教えても目が怖くて捌けないと言う。
実際、捌けなくても俺がやるからなんの問題もないんだけど、毎回一応チャレンジはしようとするんだ。結局断念するんだけどね。まぁ、魚と向き合って奮闘する姿が可愛いから取り敢えずやらせてその可愛い姿を楽しんで見てる。なんだか益々ヤバい奴になってるな、俺…
俺と翔は相変わらずの関係で、最後の一線を越えられていない…
付き合い出してから可愛さが増す翔を抱きたいと思う気持ちは日々募る一方なんだけど、それ以上に泣かせたくないという思いが強くて無理は出来ずにいる。
覚悟はしてたからなんとか堪えてるけど、実際しんどい時もあるっちゃある…
翔も成長しつつあるんだけど、それが反ってしんどさを増す事になろうとは…
はじめの頃はキスをするだけで照れて顔を紅く染めるだけだったのに、段々と鮮やかな色気を放つようになった。最近はその色気に俺が誘われる始末。でも本人にその意識は無いから厄介なんだよなぁ。
「さてと、下処理は出来たから後は煮付けるだけだよ?」
「…ごめんなさい」
「もういいから、謝るなって…」
「でも、何度挑戦しても全然できなくて…面倒くさい奴だと思ってるんじゃないですか?」
見るからにシュンと肩を落とす翔が可愛くて
「馬鹿だなぁ…そんなこと思うわけないじゃん」
笑いながらそう言うと翔は目線だけ上に向けて俺を見る。はぁ~、その目は駄目だよ…
「翔、こっちおいで?」
魚を触ったままで手を洗ってないから翔を抱きしめることが出来ない。
翔が近づいて来たからチュッと触れるだけのキスをした。