第1章 紅き姫の誕生
「当時、エレインはお前と同じ歳の十七で、私は二十二だった。既に私は結婚しており、妻との間に息子も一人いた」
ってことは、この人は今、四十二か。歳はそれなりに取っているとは思っていたが、年齢を聞くと、やはり四十をこえているとは到底思えない。
なんて、どうでもいい事を考える。
「妻は確かに良くしてくれた。だが、所詮は決められた結婚であり、妻と妻の一族の野望を叶えるための私という夫であっただけで、そこに愛などなかった。いや、私ではないな。国王という夫が必要なだけだったのだろう。幼い頃から、ろくに親に構ってもらえなかった私は、昔から愛に飢えていてね。そんな時出会ったのが、お前の母───エレインだった」
もうすでに私の頭の中は爆発寸前だ。
話のスケールが大きすぎる。
「まだ産まれたばかりの私の息子、ルーカスの世話係のうちの一人だった。お前と同じでとても綺麗な髪と瞳で、ルーカスに笑いかけるエレインは本当に女神さながらだった。今思えば、一目見たあの時から、私はエレインに惹かれていたのだろう」
ルーカスって、第一皇子の名前……!
母さんが城で働いていただなんて、聞いたことがない。国王が母さんに惹かれた?嘘でしょう?
「そしていつしか私とエレインはお互い恋に落ちた。でも、それは決して許されることではない。私は既に妻も子供もいた。それに、下町育ちのエレインと私とでは身分が違いすぎる。側室にしようかとも考えたが、そんなことをしたら、エレインの身が危ない。他の皇族家や貴族に何をされるか分からない。身分の違うエレインに嫌がらせをするかもしれないし、もしかしたらそれ以上もありえることだった。それを思う度、私自身の無力さを嘆き、呪った。愛する者さえ守ることの出来ない、無駄に大きな権力を」
私は今までずっと、私と母さんはこの国一番の被害者であり、苦労している民であると信じて疑わなかった。でも、違うんだ。
もしかすると、もう亡き愛する人を想い、己を憎み、呪うようにして、爪が食い込み、血が出るほど手を握り締めて過去を話す彼こそが、一番の犠牲者であり被害者なのかもしれない、と。