第1章 紅き姫の誕生
「えっと……あの?」
「すまない。お前の家に連れて行ってはくれないか。それで、お前とエレインの……お前の母の話を聞かせてほしい」
誰だこのおじさん。
いきなり人に抱きついてきたと思ったら、今度は家に連れてけ?しかも、私と母さんのことを話せって?
ほんと、何様。
そう思い、断ろうとしたが、あまりにも真剣な目を前にし、そんな考えは全て失せてしまった。
「いいわ。ついてきて。こっちよ」
この人も母さんのことを知っているみたいだった。私を母さんと間違えて抱きしめるくらいだ。母さんの恋人?それとも、母さんのストーカー?いや、そんなわけはないか。でも、もっとありえない考えを私は信じていた。
もしかしたら、この人は私の父ではないか、と。
死んだ、と母さんに言われてきた。
でも、生きている可能性だってある。だって、お墓参りにも行ったことがないのだ。それだけじゃ、理由としては不十分かもしれないが、私はこれを信じたい。私の父だと言われてもおかしくはない年齢だと思う。
私は彼を連れ、下町から少し離れた所にある森にひっそりと佇む、私と母さんしか知らない小屋へと向かった。