第1章 紅き姫の誕生
肩から下げているかばんには、もうぱんぱんに今日盗んだものが入っている。
これくらいあれば、一週間は食べるものに困らないだろう。もっと早くにスリの仕方を習得していれば、母は今頃…………
「────エレインっ!」
「えっ……?」
いきなり肩を掴まれる。
私のスリがバレたのだろうか、という思考が一瞬浮かんだが、きっとそうじゃない。
エレイン、とは私の亡き母の名だ。
「エレインなのか!?ああ、ずっと会いたかった!」
私の顔をたいして確かめもせずに、その人が力強く私を抱きしめる。そして、生まれたてのヒナを撫でるように、抱きしめた腕とは裏腹に優しく私の髪を指ですく。
「あの、あなたはだれ?私はエレインじゃないわ」
「え?」
次に驚くのは彼の番。
ばっと体を離し、まじまじと私の顔を見る。
私をいきなり抱きしめてきたこの人は、とても端正な顔立ちだった。歳はそれなりにとってはいるだろうが、それでもまだまだ若々しい。男の人に抱きしめられるなど、初めての経験だ。
「エレインは私の母の名前よ」
この紅い髪と紅い瞳は母譲りで、顔もよく似ている。後ろ姿なら、なおさら母と間違えても無理のない話だ。
「エレインの娘?父親は誰だ?」
「父は私が生まれてすぐに死んだと聞いたわ」
「お前、歳は?」
質問の多い人だ。
「十七よ」
「エレインがいなくなったのはちょうど今から十七年前……。それに、そのピアス……まさか」
彼は、はっとした顔をすると、また私を強く抱き締めた。
「お前は、私とエレインの……!」