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紅き姫の下剋上はーれむ。【R-18】

第1章 紅き姫の誕生


肩から下げているかばんには、もうぱんぱんに今日盗んだものが入っている。

これくらいあれば、一週間は食べるものに困らないだろう。もっと早くにスリの仕方を習得していれば、母は今頃…………

「────エレインっ!」

「えっ……?」

いきなり肩を掴まれる。
私のスリがバレたのだろうか、という思考が一瞬浮かんだが、きっとそうじゃない。

エレイン、とは私の亡き母の名だ。

「エレインなのか!?ああ、ずっと会いたかった!」

私の顔をたいして確かめもせずに、その人が力強く私を抱きしめる。そして、生まれたてのヒナを撫でるように、抱きしめた腕とは裏腹に優しく私の髪を指ですく。

「あの、あなたはだれ?私はエレインじゃないわ」

「え?」

次に驚くのは彼の番。
ばっと体を離し、まじまじと私の顔を見る。
私をいきなり抱きしめてきたこの人は、とても端正な顔立ちだった。歳はそれなりにとってはいるだろうが、それでもまだまだ若々しい。男の人に抱きしめられるなど、初めての経験だ。

「エレインは私の母の名前よ」

この紅い髪と紅い瞳は母譲りで、顔もよく似ている。後ろ姿なら、なおさら母と間違えても無理のない話だ。

「エレインの娘?父親は誰だ?」

「父は私が生まれてすぐに死んだと聞いたわ」

「お前、歳は?」

質問の多い人だ。

「十七よ」

「エレインがいなくなったのはちょうど今から十七年前……。それに、そのピアス……まさか」

彼は、はっとした顔をすると、また私を強く抱き締めた。

「お前は、私とエレインの……!」
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