第2章 姫になりまして。
式が終わるなり、私は怖い人たちに絡まれていた。下町の酔っ払いの方がましではないか、というくらいしつこく。
「貴女が陛下と使用人の禁忌の子?」
王妃が嫌味な目つきで、私を上から下まで値踏みをするように見る。
「不気味な髪と瞳だこと。しかも、背が低くてちんちくりん。陛下を誘った、淫らな母親に良く似ているわ」
母さんは城で働いていたと父さんが言っていた。紅い髪と瞳は目立つから、覚えていても不思議ではない。
ただ、言い回しに棘がありすぎる。
すごく腹が立つ。ぶん殴ってやりたいくらいだ。
「忌々しい。どうせ、陛下に媚び売ったのでしょう?貴女みたいな薄汚い小娘は、汚らしい下町がお似合いよ」
腹立つな、このおばさん。
見た目だけ無駄に綺麗なのが、更に腹が立つ。
ふんっ、と足早に私のもとから去っていく。まるで、私と同じ空気なんて吸いたくない、とでも言いたげだ。
「あははっ、言い返しもしないんだー。あ、出来ないの間違いか。だっさ」
今度は何。
びっくりするほど、さっきの数分で私の心が広くなった気がする。
「あんた、下町で育ってきたんでしょー?しかも、下町のニンゲンの血もあんたの中にあるんでしょ?ほんと、汚らわしい。僕の半径五メートル以内に入ってきたら許さないから」
もう既にあなたが入ってきてるけど。
なんて、言わないで、無視する。
こういう突っかかりは無視が一番聞くことを知っている。
第三皇子、シアン・ムーアが王妃と同じく、言いたいだけ言ってその場を去っていく。
第三皇子までだから、あと二人か。
あと二人分の嫌味を聞けば終わる。
「悪いね、弟のシアンはいつもあんな感じなんだ。母さんも、本当はそう思っていないはずだから、許してあげて」
は?あれだけ嫌味たっぷり言われたというのに、本心じゃないと?そんなわけがあるか。でも、あの二人よりは普通だ。さすがは、次期国王である第一皇子、ルーカス・ムーア。心の余裕が違う。
残るはあと一人。
第二皇子、リース・ムーア……はいない。
まあ、無駄に干渉されないだけましか。
むしろ、その方が嬉しい。
私はにこにこと笑う第一皇子に、軽く微笑んでお辞儀をして、その場を去る。父さんに、あとで部屋へ来るようにと言われたのだ。
大きくて広い城の中を、迷わないようにと必死に頭を働かせながら、父さんの部屋へと向かった。
