第2章 姫になりまして。
うわぁ……人がいっぱい……。
私は今、とても高い所に立たされている。
上質なシルクで出来たドレスに身を包み、驚くほど入念に体を洗われ、香を焚かれ、三人の皇子と国王である父さん、そして王妃と並び、国民にその姿を晒している。
『いいか、ミレディ。明日、式典があるのを知っているな?跡取りを決めることを民に知らせるのだ。お前は私が紹介するから、私が名前を呼んだらゆっくりと立ち上がり、側まで来てくれ。そして、私が小声で合図した時に、少しだけ微笑んで軽く手を振るんだ。分かったか?』
と、昨日城へ来るなり、父さんに指示されたものの、やはり緊張する。なんと言っても、王妃の冷ややかな視線。ぞわりと寒気立つ。
まさか、自分がこんな所に立たされるだなんて思ってもみなかったし、完全に今日のことを忘れていた。
「────ミレディ」
父さんに小声で名を呼ばれ、現実に引き戻される。立ち上がらないと。私は、ドレスの裾を少しだけ上げて、出来る限り淑やかに見えるように立ち上がる。
「これは私の娘である。訳あって、今まで自分が王家の血を継ぐ子であることを知らなかったのだ。今日をもって、正式にこのアンデルシュ王国の王女とする」
民から、「とても綺麗な紅い髪と瞳ね!」「美しい!」「王女万歳!」と様々な声が聞こえてくる。でも、私は知っている。腹の底では、そんなこと一ミリたりとも思っていないことくらい。
とても気分が悪くなったが、私のせいで式を台無しにするわけにはいかない。私は言われた通り、微笑んで軽く手を振った。