第1章 序章
「はぁっ。」
息を喘がせながら、私は周囲を見回した。
おかしい。
なんで、まだ出られないの?
林は、すぐ向こうに出口があった筈なのに、行けども行けども木が続いている。
絶え間なく走っていたので、私は疲れて、とうとうしゃがみこんでしまった。
火照った身体を、荒い呼吸で鎮める。
まずは、落ち着かないといけない。
深呼吸して、私は速くなった呼吸を整えた。
一体どうしたのだろう。こんなに走っているのに、出口どころか、周りの景色が一切変わっていないなんて。
神隠しにでもあってしまったのだろうか?
あながち、間違っていないような気もした。
また、そのような現実的ではない話は、ないとは思いつつも、どこかであるような気すらする。
そんな風に考えてしまうのは、やはり姉の影響が強い。
姉がこの町で失踪していて、しかも、理由が分からないままなんて、もう神隠しにでもあったとも考えられてしまうのだ。
「お嬢さん。迷子かい?」
不意に、嗄れた老人の声が、私を呼び止めた。
振り返ると、黒いフードを目深にかぶった、陰気な老人が、林の木の横に立っていた。
こんな怪しい所に、怪しい人物。だけど私は恐怖に駆られていて、どうしようもなく助けが欲しくて、その人物がどういった者なのかなど、考えもしなかった。
その老人が、何故こんな所にいるのかということには全く思考が働かなかった。
ただ助けてもらいたい一心で、その老人に近寄った。
「すみません。ここどこですか!?あたし、今日この町に来たばっかりで、何も分からないんです・・。」
言いながら私の目には涙が浮かんできた。こんな心細い思いは今までしたことがない。
早くここから出たくて、私は思わず老人にすがりついた。