第52章 歯車
「加藤。」
「…はい。」
「おまえは組の為に命をかける勇気はあるか?」
宗次郎の車の中。
運転する宗次郎が、助手席に座る加藤を見ずに言った。
建一は後ろで窓の外を眺めている。
「……え?」
驚いた顔で、加藤は宗次郎を見た。
「命(タマ)はれるか?」
再び宗次郎が呟いた。
「命ですか……。」
加藤は考え込むようにうつむいた。
しばし、時が流れる。
「…やっぱり――」
「……正直、分かりません。でもワシは組を守るために死ぬんじゃなくて、生きて組を守り続けたい。……番犬として。」
ギュッと手を握りしめた。
親父や兄貴の後ろで守りたい。
組を。
たとえ自分が頂点にたてなくても、日本一の番犬としてそこにありたい。
「そうか。」
宗次郎はクスリと笑うとハンドルを左に切った。