第51章 溺れた者と再来
「親父がやられたか。このまま目覚まさんであの世に行ってくれりゃあワシの時代が来るんじゃ。」
次の日の午前中。
椅子に座る松下が呟いた。
ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべている。
それを自分の机の椅子の上で加藤は聞いていた。
隣の椅子に建一もいる。
「のう…駒犬(こまいぬ)。」
松下が加藤を見た。
まだ笑っている。
「クソがッ――。」
ダンッ―――
加藤が激しく机を叩き松下を睨み付けた。
机の上のものが散らばる。
建一が慌ててそれを拾う。
加藤も董次郎が撃たれた事は知っていた。
その事でも彼は苛立っていた。
元々彼は、自分を導いて組に入れてくれた董次郎に恩義がある。
一時期は派閥を作っていたが、組長に対しての忠誠心は人一倍大きい。
その為、組長がやられたとなると相手に対し怒りがわき出てくる。しかし、若衆に成り下がった彼が何とか出来るわけがない。
ましてや、相手さえも特定できない。
結局は何も出来ないのだ。