第50章 魅惑の仮面
堀田が岩中組を訪れた日の夜。
PM8:46
「江田組が宗次郎を!?どういう事や!?」
少し揺れる車の後部座席で男は叫んだ。
男の名は岩中董次郎。
西條会若頭補佐兼、岩中組組長である。
「そんなこと一言も……なニィ?宗次郎が口止めを?」
董次郎の眉間にシワがよる。
つるつるの頭に大量の青筋が浮き出た。
いつ、彼の怒りのマグマが噴火してもおかしくない状況だ。
部下はルームミラー越しに冷や汗をかきながら彼を見ている。
「もういい……でも何でお前が知っとんのや?……窓?」
ガシャン―――
董次郎が窓の外を見た瞬間、硝子を何かが突き破った。
「な……なんやこれ。」
胸に広がるジワジワとした痛み。
触れば、赤黒い血がねっとりとついていた。
「親父ッ!!」
キィィイ―――
ガチャッ―――
護衛が車を止めて運転席や助手席から降りてくる。
「救急車やッ!!早くッ!!」
部下が叫ぶ。
「たいしたこと……ない………わッ。」
ドサッ―――
董次郎が車から外へ崩れ落ちた。
「親父ィッ!!」
部下の叫び声が辺りに響いた。
野次馬達がジロジロと見ている。
ブオォォオオン――――
その様子を見ていた一台の黒の乗用車が彼等の横を走り過ぎていった。