第32章 嫉妬深い彼とズルいあたし
あれから、家に帰っても山吹色の髪をした男のあの顔が忘れられなかった。
血だらけの彼が一瞬見せた悲しそうな顔。
本当にあの人は悪い人なのだろうか。
本当はなにか―――
「どうした?」
乾いた洗濯物を持ったままボーッとしているあたしに、彼が尋ねた。
「……え?あ…ちょっと――。」
止めていた手を動かす。
「なんかあったんか?」
彼も絆創膏が貼られた手で洗濯物に手を伸ばす。
「あったっていうか……あの人って本当に悪い人なんかな…。」
彼の顔を見ずに言った。
「なんで?」
彼が不機嫌になる。
それは声色で分かった。
「だって…なんか悲しそうだった。」
また、あの顔を思い出す。
なんだか胸が苦しくなる。
「お前…あいつが好きになったんか?」
「え?ちが――」
「なら、なんであんな薬中の事気にすんだよ。」
ますます、彼が不機嫌になった。
そんな彼をあたしは見ることが出来ない。
「………わかんない。」
あたしは小さく応えた。