第26章 頂点を狙う者
10月下旬。
この頃、岩中組の若衆の中では宗次郎派と加藤派に別れていた。
宗次郎の甘い考えについていけない者は加藤派へ。
加藤の強引かつ暴力的過ぎる考えについていけない者は宗次郎派へ。
二つの派閥は対立していた。
しかし、この事は董次郎や宗次郎でさえ知らない事だった。
表向きでは仲良くしていたからだ。
キャバクラ"ロエッタ"――
大人の雰囲気漂うクラシックな店内の一角に加藤達はいた。
少し濃い目の化粧のなされた女を両側に置き、ブランデーをたしなんでいる。
「わかがしについていくバカ者達の気がしれませんね、兄貴。」
左側に座る加藤の一人目の代表的な子分である高橋 辰巳(たかはし たつみ)が言った。
坊主でかなり背が高くがたいもいい。
「あいつらバカなんだよ。兄貴の素質がわかってねぇ。」
右側に座る加藤の二人目の代表的な子分である佐藤 忠夫(さとう ただお)が足に拳に置く。
「まぁ、いずれこうなるんわ分かっとったで、ワシは。」
グビグビと加藤は酒を飲み干した。
ドンッ――――
「せやけど、負けられんわ。秋本や兄貴にも。」
懐から扇子を取り出す。
「おかわりお作りしましょうか?」
「いらん。」
女が申し出たが、加藤はそれを断り女の肩を抱いた。
「ワシャなぁ、加藤組を作る男やでェ。今媚び売っとかな後悔するでェ。」
女に酒臭い息が吹きかかる。
悪酔いだ。
「兄貴…ちょっと飲み―――」
ガシャンッ――――
「かはッ――――」
「じゃかぁしいわッ!!気持ちようなっとるのに邪魔すんなヤ!!ドアホッ!!」
加藤は佐藤の頭をテーブルに叩きつけた。
テーブルの上の物が飛び散る。
女達は声にならない悲鳴を上げた。
「ワシが天辺とるさかい、見とれよォ…オイッ酒!!」
加藤はグラスを女に渡した。