第58章 魔王と捕らわれ姫と裏切りとそして守る者
「二十年前、あんたの父親はあたしのお母さんとあたしを家から追い出したのよッ!!まるでゴミを捨てるかのようにね!!」
「親父が…捨てた?」
江田の顔が後ろを向いた。
「そうよ!!なのに…アンタと父親はヌクヌクと生きて…ムカつくわ!!お母さん…たくさん頑張ったのに!!アンタと血が繋がってるかと思うと虫酸が走る!!」
拳銃を握る手に力が入る。
どういうことだろうか?
この二人は兄妹なの?
状況が理解できない。
「それは……違う……。」
また、入り口から声が聞こえてきた。
今度は掠れた弱々しい声。
「…クソオヤジ……何でこんな所におるんや。」
皆がそちらを向いた。
そこには今にも倒れそうなか細い老人が立っていた。
フラフラの足で男の人に支えられている。
「バカ息子の…過ち正すんが……親のつとめだ。」
息を切らしながら老人が言った。
「どういう事よ、違うって!!アンタが捨てたんでしょ!!」
老人にレイカが叫んだ。
「ワシは……麗子(れいこ)を愛しとった……心のそこから。だからこそ……極道の争いに巻き込まれんように逃がしたんだ、玲香(れいか)お前と一緒に。」
老人の瞳が揺れている。
まるで愛する者を見るかのように。
キュッと胸が締め付けられる。
おじいさんの"愛する者を守りたい"という気持ちがひしひしと伝わってくる。
あたしも彼を守りたい。
誠也君の方へ目を向けた。
「…嘘よ、そんなの嘘に決まってる。」
レイカの腕が力無く落ちる。
「嘘じゃ…ない。会いたかった……ずっと。」
老人がゆっくりと近づいてくる。
よろよろとおぼつかない足取りで、確実にレイカへの方へ歩いている。
あと少し。
あと―――
パァンッ―――
しかし、それを邪魔するかのように乾いた音が鳴り響いた。
ゆっくりと老人が倒れていく。
「愛とかなんだの虫酸が走るわ。」
拳銃を持った花村が吐き捨てるように言った。