第6章 きょうだい 其の貳
「えっと、それでは出陣組には刀装を渡しておきますね。
絶対無事に帰って来てください。
無茶も無理も禁止します」
送り出すときはいつもちょっと怖くなってしまいます。
でも、わたしがブルってしまってはいけません。
しゃきっとしないと!
「いってらっしゃい!」
手を降ったり、握手とかハイタッチしてから玄関を出ていきます。
最後に燭台切が出ていきます。
「みんなを、頼みました」
燭台切は任せてと笑って出ていって、戸が閉まって、家が静まり返ります。
「…いって、らっしゃい…」
家族のようなみんなをこうやって戦場に送り出さなくちゃいけないのは、良心が痛みます。
…あの日のわたしは、とても正気には思えません。
戦争をするというのに、笑顔で了承したなんて。
無知というのは、もっと綺麗にいうと無垢というのは、こんなにも酷いものだなんて。
暗い気持ちのままキッチンに向かって、お皿を洗います。
冷たい水が泡を流す様が、思い出や心残りをさらっていくみたく思えて、背筋がぞわりとしました。
「…わたし、お留守番て…何だか、…もっと、何度もしたような…」
誰かの帰りを、待っていたような。
最初は何もせず、部屋に並ぶぬいぐるみのように黙ってそこに佇むだけで。
回数を重ねて、誰かのために何かをしたくなっていって。
洗い物が終わり、することがなくなって、わたしはふらふらと貧血みたいになった体を動かしてキッチンを離れて、リビングの床にへなへなと座り込みました。
思い出したい。
わたしは、忘れていることにしているわたしを、思い出したい。
怖いけど、怖いけど、わたしはあるじさまなのに、自分の事さえ満足にできてないのに、半人前なのに、格好悪い要素ばかり持っているなんて嫌。
みんなに誇ってもらえるような素敵な存在でいないとだめ…いつまでも、みんなが優しいからって、甘えてちゃだめだ。
こうやってふらふらしちゃう時、いつも何か思い出せそうになっているから、もしかしたら、今なら何か思い出せるかも。
うんうん唸りながらこの何とも言えない辛さを耐えていたら、突如金属の棒とかで殴られるような痛みが後頭部を襲いました。
こういうどうもこうもない時の人間のしょうがないところですが、助けて神様、なんて、思ってしまうのでした。