第5章 きょうだい 其の壹
お、怒ってます?
薬研はご兄弟の中ではお兄さんな方なのですかね?
お説教みたいな空気を感じます…。
「えと、あのぅ…わたしも、眠れなくって…」
「うん、それで?」
ついビクビクしてしまいます。
「そ、れで…飲み物を、って…」
「ちゃんとてれび、消した筈なんだけどなぁ?」
じりじりと距離が詰められます。
避けようとするのは降参を意味します…。
退くわけにはいかないのです…!
「うっと…」
「たーぁいしょ?」
「…ほんと、は…もう、寝なくてもいいかなぁって…思いました…」
かんかんかーん。敗北です。
『かんかんかーん』っていうのはあの、格闘技系の試合でなるあの音です。
「みんな心配してたよな?」
薬研は負けを認めたのを見てうんうんと頷くと隣に座りながらそう言いました。
「ごめんなさい…」
「ま、眠れないんじゃしょうがないな。
俺っちも一緒なんだ。ちょっと駄弁るか」
薬研は緊張を解すみたいに伸びをします。
「え?あ…怒らないん、ですか?」
どきどきしながら聞きます。
「んー?」
薬研はこてんと首をかしげてみせるので、わたしもつられてしまいます。
それから机に肘を、頬杖をついて、頭の中はてなだらけのわたしの方を見て笑いました。
「眠れずに起き出したのは、俺っちも一緒だからな。
だから、二人だけの秘密、な?」
唇に頬杖をついているのと逆の手を持ってきて、人差し指で内緒を表すポーズを取りました。
「…!はい!秘密です!」
わたしも同じポーズを取ってみせます。
「眠くなるまで駄弁ってるか?」
「はい!ありがとうございます!」
今日一番のやり残し、薬研とのお喋りミッション?も達成できて、夜更かしは正解だった!とさえ思ってしまいました。
「大将、そろそろ眠そうだな」
「そんなことないですよ?
薬研は眠くないんですか?」
夢うつつ…いや、もう夢の中だろう。
目も閉じかけていて、今にも机に突っ伏して眠りそうだ。
「これ、洗った方がいいか?」
「コップ…は、あっちのシンク…流し?蛇口のやつがあるところに、置いといてくれたら…わたしが持っていきますよ?」
「いいや、俺っちが持っていくから、大将はちょっと待っててくれ」
どこか下の兄弟のことを思いつつ頭を撫でてやると、ふにゃふにゃと幼い子供のように表情を緩ませた。