第5章 きょうだい 其の壹
戻ったときには案の定すやすやと眠っていて、本当に幼児の相手でもしているようだ。
この中では大将だけが人間で、大将だけが性別が女である筈なのだが、ここまで警戒心がないというのは…子供じゃないんだからと言いたくなる。
自分達の年齢と比べたらそりゃあ赤子のようなものではあるが、人間の年齢で考えたら…。
というか、幼児でさえ持つ防衛本能を欠片も感じないのはどうなんだ?
仕える身としてはううむと頭を悩ませるところだ。
少しは自衛してもらいたい。
これ程だと、わかりやすい人拐いの類いにほいほい付いていきそうで気が気じゃない。
っと、今はそれよりも部屋に運んでやって、ちゃんと寝かせてやるのが先か。
「ちょっと揺れるぞ」
寝ている相手をおぶったりするのは身長の差的にも手間取るし、己の大将を米俵のように担ぐのもどうかと思い普通に抱き上げる。
揺れたのが不快だったのか少しだけ不愉快だと言いたげな声がしたが、無視して大将の部屋に向かう。
よくわからない鍵のかけ方があるそうだが、大将の部屋の鍵は大将の指で開くらしい。
寝ている大将の指を勝手に使えばいいだろう。
開かなければ乱が寝ている自分達の部屋に寝かせればいい。
思った通りに鍵は開いて大将の部屋に入る。
見慣れない雰囲気の家具ばかりで、生きている時代の差みたいなものを感じた。
いや、人の体を得てこの家を軽く見回った時点で、それは強く感じていたが。
自分の部屋も和室である為、個人の持つ部屋がこうも洋風だと少し戸惑うというか…まぁいい。
布団が置いてある台のようなもの…あれに寝かせればいいのだろうか?それとも台から布団を下ろすのか…違うな。
多分これであっているんだろう。
大将をベッドの上に寝転がせて、布団をかけてやる。
「うう…誰…?」
「俺っちだ。すまない、起こしたか?」
「おれっち…うん…?」
起きたとは言っても完全に夢の中だ。
ぽんぽんと頭を撫でると穏やかな顔になる。
「おやすみ…たいしょ」
「うん…」
大将は返事の後、聞き捨てならないというか、聞き捨ててもいいのだろうが、あまり理解できないことを口にしたように聞こえた。
ごにょごにょと寝惚けた口での言葉だったので信用性も薄いが、自分には確かにこう言ったように聞こえた。
『お兄ちゃん』と。
大将に、兄がいるのか?
いや…乱から聞いたが、大将に兄弟はいない、筈。