第1章 空気と同じ透明から
「き、清光…?顔が血だらけですから…」
何故嫌がるのかがよくわからないです。
清光は顔を両手で隠したままわたしの方を向きます。
「だから嫌なの!俺今かわいくないから!」
今かわいくないから愛されないーだの、重傷で主に迷惑かけてもうやだーだの、わぁわぁと言えているのでどうやら元気一杯みたいですね。
…手入れ、すごいです…。
彼の横にある本体…刀の方もボロボロだったのにもうぴっかぴか!
後は顔を綺麗に拭いてあげるだけです。
「かわいいですかわいいです。
だからかわいい顔を見せてください」
「今の顔かわいくないから見せられない!」
あう。失敗しましたね。
「かわいい清光の顔が汚れてしまったのなら、それを綺麗にするのがわたしのお仕事です。
清光、早く綺麗にして清光が満足いくかわいい顔になってください。
わたしはこんなことくらいであなたを嫌いになったりしませんから」
ここまで言って渋々指の隙間から少しだけ涙目の両目を覗かせてくれました。
「清光。あなたは主の…わたしのお願いを、聞いてくれないんですか…?」
「聞く聞く!あーもう、ごめん主!」
でも恥ずかしいとか色々言っていますがそこはスルーです。
美人さんなんですから血みどろになったくらいでかわいくなくなったりしませんよ。
…ちょっとホラーな気はしますが、ほぼわたしのせいですからそんな無責任なことは言えません。
…よし、綺麗になりました。
「はい、ちゃんと拭きましたよ」
ぼさぼさになっている髪を指摘せず頭を撫でます。
笑ってくれたので、わたしもつられて笑ってしまいました。
「お二人ともとてもお疲れでしょう、ゆっくり休んでください。
浴場、台所、寝室等はご案内した通りです。
報告書は本日は必要ありませんので、そろそろ政府に帰らせていただきます。それでは」
狐なのに礼儀正しく、ペコリと頭を数秒下げてからドロン!と忍者みたいに煙を少しだけ出して消えてしまいました。
…あの狐…もしかしなくてもマジックショーの方が、儲かるんじゃないでしょうか…。
それに怒りそびれてしまいました。
というか、絶対に逃げられましたね。
悔しいです。