第1章 空気と同じ透明から
そういえば、そうでしたね。
わたしの目の前にいる人は、人の形こそとってはいますが、あくまでも刀でした。
人のやり方じゃあ、直らない。
当然のことを言われただけですが、わたしはこの狐が狂気じみて見えてぞわっとしました。
…もしかして、これの説明のためだけで…。
怖くなって黙って道具を手に取り、寝かせた清光の方に向き直ります。
怪我したところを、なるべく痛くないようにぽんぽんっとしてみると、流れ出てしまった血こそ付着したままですが、本当に傷がなくなっていきます。
無我夢中でぽんぽんぽんぽんしていると、傷がなくなっていくだけじゃなくてなんと服も綺麗になってきました…服が!?
そっか、そうですね、刀を直している…うんうん。
つまりは人の姿になって現れた時の衣装はある意味刀の一部であるということでしょうか?
傷がなくなってひと安心だーと考えてよそ見している間に、彼の横に置いてあった服の穴やらなんやらがなくなっているではありませんか!
あ!ズボンも綺麗!
初めて会ったときと全然変わりないくらい…。
でも口やら鼻やらから流れていた血は乾いて残されたままで、怪我の周りとかの血は綺麗になっていたのにこういう血は残されたままなんですか。
内臓や外傷に怪我から出た血、おまけに服も直ってしまうのに…中途半端ですね、手入れって。
狐が布を口にくわえて近付いて来ました。
ありがたく受け取りましょうか。
「ありがとうございます」
ぶっきらぼうというか、嫌だーっていうのが全く隠れずに出てきたので自分でもびっくりです。
狐はもふもふと尻尾を左右に振ると、こてんと首を傾げただけです。
わたしの不快感の理由が理解できないというみたいで、これはそういうものだからしょうがないのかと思うしかないですね。
顔の血を拭いてあげようとしたら、突然目を開いた清光と目が合いました。
清光は目を見開いて、ぱちぱちと2回瞬きしますが、何が起きてるのかわからないという顔をしました。
「お疲れ様、でした。帰ってきてくれて…
本当にありがとうございます」
清光はわたしの言葉でやっと状況がわかったみたいです。
急にぐるんとうつ伏せになって顔を隠してしまいました。
髪もぐちゃぐちゃになったまま…ここも手入れの手抜きなところですね。
顔が拭けないので清光をもう一度うつ伏せにしようとしたら手を弾かれてしまいました…。