第5章 きょうだい 其の壹
「あるじさまがぼくらのことがすきといってくれるの、うそとはまったくおもっていませんよ!
でも…あるじさまがみているものが、ぼくにはよくわかりません」
「どういう意味、ですか…?」
今剣は考えているポーズをとります。
「あるじさまは、いっしょにいるはずなのに、いつもどこかべつのところにいるみたいなんです」
「別の所?」
今剣は頷きます。
「てをつないでも、だきついても、あるじさまのこころにぜんぜんとどかないんです。
ぼくだけなのかもしれませんけど…でも…」
一度言葉を切って、今剣は続けました。
「あるじさまは、じぶんのことすらなにもみえていないみたいなんです」
今剣はわたしを哀れんでいるのか…いえ、単に疑問で、心配してくれているんでしょう。
「だからその、いつか、ぼくはあるじさまにみてもらえなくなっちゃうとおもって…あせっていました。
ほんとうにごめんなさい。
もうあんなこと、ぜったいにしません」
何と答えたらいいのかわからなかったです。
でも何か言わないと、と思ってわたしは口を動かしました。
「…はい。もう、ゆるしましたよ。
わたし自身もよくわからないんですが…。
今は楽しく遊びましょう!
それから、今剣が不思議がっていることの答えになるとは思いませんが…」
ちょっとだけ、わたしのことを話してみようと思います。
「わたし、自分が誰なのかも、本当は知らなくて…わからないんです。
さにわってお仕事は知っての通り、政府を経由してというか、政府からの派遣とかスカウト…勧誘?みたいにして就くんですけど…わたしは、気付いた頃には政府にいて、あれよあれよーってさにわになったので、さにわになる前の事、何も…何も知らないんです」
人狼ゲームで自分が人狼だとカミングアウトするくらいのめちゃくちゃな感じがしました。
「きおくそうしつ、というものですか?」
「多分…そうだと思います。
政府の誰かはきっと、何か知ってると思うんですけど…聞いちゃいけない気がして」
今剣は、すらりとこう言いました。
「あるじさまがしりたがっていないというわけでは、おもいだしたくないというわけでは、ないのですか?」
「…え?」
そんなこと、考えもしませんでした。
思い出せなくて、思い出したくない。
そんなこと、認めたくなかったです。