第5章 きょうだい 其の壹
ぐにゃりぐにゃりと景色が歪みます。
ぬいぐるみをぎゅっとするよりも優しく今剣を抱き締めます。
もしもわたしに年下の兄弟姉妹がいたり、いとことか親戚の子とかがいたら、こうしてあげたんでしょう。
気付いた時には元の廊下で、今剣も元の格好でした。
「ごめ、なさい、ごめんなさい…」
わんわん大声を上げないように泣いています。
ひっくひっくと、まさに子供みたく泣きながら言葉を聞かせてくれます。
「あんなこと、したくなかったです…!
でも、ひとりになるのが、いやでした。
あるじさんのそばにいられる、とくべつなかたがきがないぼくは、わすれられそうで…。
こわかったです…すごく、こわかったです…!」
まだ会って全然時間が経っていないわたし達です。
みんなと、ゆっくり仲良くなれたらいいと思っていたわたしですが、こんな気持ちにさせてしまうのなら、もうちょっと急いで仲良くなったっていいんじゃないでしょうか。
今剣にとって…もしかすると他のみんなにとっても、『主』という存在は、わたしが思うよりずっと重いのかもしれません。
「どこにもいかないでとは、いいません。
でも、ぼくを…おいてけぼりにしないで…。
いいこにします。おるすばんもできます。
だから…おねがい、です、…あるじさま…」
顔を汚す涙を拭っていた今剣の両手は、わたしをぎゅうっと掴みました。
「心配しなくても、今剣のことを一人だけ置いていくなんてことはしません。
怖い思いをさせて、ごめんなさい」
ぎゅっと抱きついて離れないで、顔が見えないまま、ぐす、という声だけが返ってきます。
「それに、肩書きなんて…。
気にするのは今剣くらいですよ?
だから気にしなくても…」
「きにしますよ!
みんなあるじさまがだいすきなんです。
うかうかしていたら、あるじさまとぜんぜんあそべなくなっちゃいます!」
泣いてしまったので鼻が赤くなっています。
「遊びたいなら遊ぼうって言ってくれたら、お仕事とかがあるのですぐとは言えませんが、時間を作って絶対に遊びますよ」
今剣は眉を下げて言いにくそうに答えます。
「あるじさまが、いったいなににきょうみがあるのか、ぜんぜんわかりません。
ぼくにかんしんをもっているのかも、あるじさまじしんにかんしんをもっているのかさえ、ぼくにはわからないんです」
…?どういう意味でしょうか?