第5章 きょうだい 其の壹
主従がひっくり返ってないなら、言霊で今剣に『命令』が可能です。
模範にするべきさにわなら、そうしたでしょう。
「今剣」
残るというのも、淋しさを感じさせたことの謝罪かもしれません。
優しいというか、甘い人ならそうするでしょう。
「わたしは、ここにいることはできません」
でもわたしは…どれもしてあげません。
「わたしはみんなの主、ですから」
立ち上がって、今剣の目の前に立ちます。
今剣は地面を見つめたままです。
「あなたのしたことは…」
『ひどいことだ』なんて責めてもあげません。
「顔をあげていられないことなのでしょう?」
今剣はびくっと肩を揺らしました。
「自分でしちゃだめだとか、悪いことだとわかっているんでしょう?
…前を向けないことはするものじゃないです」
でもわたしは、怒ってあげられます。
今剣自身が間違いだと思っている間違いを肯定してなんてあげません。
「だ、だって…!かんがえました!
これしかないんですよ!
ぼくはこれがいちばんしあわせなんです!」
わたしは間違えていると教えてあげます。
間違えたまま進ませてあげません。
バツ印だけ付けるなんてこともしません。
今剣が顔をあげて堂々と進める道を、自分で答えを出させるんです。
「今剣の吐く嘘じゃわたしは騙されませんよ」
今剣は地面に崩れ落ちました。
肩を揺らしながら泣いています。
「どうして、どうしてひどいって、きらってくれないんですか…!
こわいことしたのになんでにげないんですか!
ぼく、すごくわるいことしてるのに…!」
「わたしはあなたの主ですよ?
あなたのことが好きな、あなたの主です。
そして…みんなが好きな、みんなの主です」
わたしも地面に膝をついて、しゃくりあげる今剣の背中をぽんぽんと優しく叩いてあげます。
「贔屓しているように見えたなら、謝らないといけませんし、直していかないといけません。
未熟で、ごめんなさい」
めちゃくちゃな理屈で、意味のわからないわたしの気持ちを話します。
「…わたしは、悪いことしたら怒ります。
でも、見捨ててなんてあげません。
あなたはわたしの刀です。今剣。
あなたはわたしが死ぬときまで、わたしの傍にいるんです。
勝手に傍にいられないなんて思わないでください。
残念ですが、手放してあげません」