第5章 きょうだい 其の壹
「どうやったら、ぼくはあるじさまといっしょにいられるのですか?
あそんでくれるにはどうしたらいいんですか?
いっしょにいられるじかんは、どうやったらおおくなるんですか?」
「…今剣」
呼びかけは届かなかったみたいです。
「はじめてのかたなというだけで、あるじさまととくべつなかよくなれます。
おんなのこみたいだったら、あるじさまとぼくにはわからないはなしができます。
おりょうりができると、あるじさまがおてつだいにきてくれたりもしてくれます。
じゃあ…ぼくは?」
握られた手が少しだけ痛いです。
…握られているからじゃなくて、体全体がぴりぴりした空気を感じます。
「ぼくはみがるですが、あるじさまはさすがにぼくとおなじようにとんだりできません。
でもあるじさまは、きづいたときにはもう、そばにいないんです」
「そんなこと…!」
「ありますよ。あったんですよ」
今剣は全然話させてくれません。
一方的に自分が語り続けます。
「どうしたら…あるじさまはぼくのそばにいてくれるのか…たくさん、かんがえました。
これしか、なかったんですよ」
今剣は目を閉じます。
強い風が、窓もない、外に繋がる扉も近くにない廊下を駆け抜けました。
わたしは咄嗟に目を瞑ります。
風が通り過ぎて、そっと目を開けた時には、お家の中ではありませんでした。
淋しくて、心細くなりそうな場所。
そこにわたしは一人で座り込んでいました。
「こ、ここは…」
「ここは、ぼくのばしょです」
後ろから今剣が歩いてきました。
出陣するときの格好で下駄まで履いていました。
「どういうことですか…?あなたの場所って…」
「あるじさまがぼくといっしょにいてくれないなら、ぼくはとりかごにでもあるじさまをとじこめます。
…ここなら、あるじさまといっしょです」
言われたばかりなのに、ですね。
こんのすけはこれを心配していたのですね。
神隠し…妖怪だとか呼ばれるものの人拐い。
神様でさえも気に入った人を連れていく。
…でも、わたしには名前が本当じゃなくて、自分でもわからないというのが保険としてあります。
名前がわからなければ、神隠しは完全じゃない…まだ、わたしと主従の関係はひっくり返っていません。
「ぼくは、こんなことができるようなやつです。
ひどいでしょう?こわいでしょう?」
泣きそうな声で、悲痛な顔を向けました。