第3章 半宵の反証
体を起こし、ベッドの上で正座します。
「それは、どうしてなのですか?」
入り口の側にいたこんのすけは狭い歩幅で数歩ベッドに近付きます。
「刀剣男士は付喪神の類いです。
主さまが思うような『神様』とは全くの別物ですが、相手は『力』の塊です。
…もしも彼らがその気になれば、審神者という主従の縛りを越えて、あなたに逆らうことなども不可能ではないです」
逆らう…とは、つまり、寝首を掻かれたりとか、もしかしたらそれよりも酷いことがありえなくない、ということでしょうか…?
「神隠しと呼ばれる人を拐う程度のこと、力の弱い妖怪でも可能です。
式神等の主従関係があれば対処できます。
ただ、真名を知られるということは、殆ど自分の魂を相手に差し出すようなことです。
そうすれば逆に、言霊で立場を逆転させることも、できます。
本当に心から信頼を置く相手でさえ、教えることはあまり…その場でかっとなって手を出されることだって…」
こんのすけは、本気でわたしを心配している様子です。
「それなら、心配はいらないんじゃないでしょうか?
わたしは…自分の名前が、わかりません…」
ぐっと弱々しくなりそうなのを堪えます。
「それでも主さまが今、名乗っている名前が本当の名前だったなら…」
「『だったなら』、なんですか?」
こんのすけは黙りこみました。
「もしあなたが危惧するようなことになったら…、わたしは、『その程度』だった、というだけです。
それに今使っている名前は、政府で考えた名前なんです。
だからきっと本名じゃないです」
わたしもそれ以上言うことはなかったので黙ります。
「…わかりました。
こんのすけはこれ以上、何も言いません」
「え…それっ、て…」
ぴょんと跳ねたこんのすけはわたしの目の前に降り立ちました。
「言ってはいけません、主さま。
今のお話はどうか、こんのすけと主さまだけの秘密にしてください」
クダギツネに…使役されたものに私的なことなんか、あってはいけないのでしょう。
「はい、わかりました…。
…そうです!今日、刀装を作ってもらったんです!
成功したので心配入りません!
明日は…そうですね、清光から聞いた話では敵は2体だと言っていたので、出陣するときは3人いれば怪我しませんよね!」
無理に話を切り替えます。
お礼さえ言わせてくれないなんて、酷い狐ですね。