第3章 半宵の反証
「…見ますよ。お化けなんかが出てくる夢。
誰かに怒られちゃうとか、喧嘩しちゃうとか、一方的に怖いことをされたり、酷い目に遭わされる夢も。
トラウマとか、こうはなってほしくないなという夢だってあります」
本当のことを言います。嘘を吐いてもしょうがないですから。
「でも、怖い夢を見たら、わたしでもみんなでも、誰かに聞いてもらえばいいんです。
夢だからうろ覚えで、恐怖だけが刻まれて目が覚めることもあるでしょう。
そうしたら、怖かったと言えばいいんです」
「怖かったって…?」
不思議そうにわたしの言葉を繰り返します。
そうですと頷いて話を続けます。
「きっとみんな、こう言ってくれますよ。
…『それは、ただの夢だよ』って」
燭台切は何も言いませんでした。
わたしも何も言いませんでした。
「そっか…うん、そうだね…うん…こんな、簡単なことだったんだ」
「そうです。簡単なことなんですよ」
そう言った後、眠たげな声で燭台切が言いました。
「…もし…、言いたくなかったら…言えなかったら、どうしたらいいんだろう…」
わたしはただ答えます。
「言わなければいいんです。自然と気付きますから。
ただの夢なんだって…。
辛い昔のことを思い出したら、楽しい今をみんなが教えてくれます。
背負いたい昔が重たくなったら、みんなが知らぬ間に支えてくれます。
…だから、大丈夫です」
返答は来なくて、代わりに寝息がします。
顔を覗きこんでみると、燭台切は穏やかな顔をして眠っていました。
わたしも眠たくなってきました…。
「部屋に戻りますね、おやすみなさい」
先程教えてもらったパスワードを入れて部屋を出ます。
自室に入って、そのままベッドに飛び込みます。
柔らかくて、雲の上みたいで、わたしはすぐに眠ってしまいそうになりましたが…。
「主さま」
「ああ…お話、ですね。今日はもう来てくれないと思いました」
クダギツネ?というものと判明した夜中にみたらちょっと怖い顔をした狐…こんのすけ。
「…もしかして、わたしの名前の話だったりしますか?」
みんなわたしの名前を聞く度におかしな反応をしました。
教えないでと忠告もされました。
「そうです。気付いていらっしゃるかと思いますが…主さまの名前、真名は、あまり刀剣男士に、仮にも神と呼ばれる者に教えることはおすすめできません」