第3章 半宵の反証
踏み込んでみると、燭台切が机に片肘をついてテレビを見ていました。
「夜更かしはダメですよ」
わたしはそう言いながら、燭台切の隣に座りました。
片肘をつくのをやめて、燭台切は困った笑顔を浮かべます。
「ごめんね、明日の朝ご飯を決めてたら、眠くなくなっちゃって」
「…それは、本当…」
言いかけてわたしはぱっと口を抑えました。
本当ですかなんて、何を言おうとしているんでしょう。
燭台切はぱちぱち瞬きをしてきょとんとしています。
「ご、ごめんなさい、わたし、何を言っているんでしょうか、すみません」
咄嗟に謝ると、燭台切は笑いました。
自嘲しているように見えて、わたしは首をかしげました。
「君はすごいね。
…本当はすごく眠たいんだと思うんだ」
燭台切はみんながおやつの後眠ったとき、一人起きていると言っていました…もしかして。
「燭台切は、眠るのが怖いんですか?」
「笑っちゃうよね、今は人と全く同じ体なのに…、おかしいよね」
わたしはぶんぶんと首を横に振りました。
「人だって、眠るのが怖いときもあります。
食べ物が喉を通らなくなることもあります。
目を開けたくない、何もみたくないってこともあるし、逆に目を閉じてしまうのがいやでいやで仕方ないときもあります」
正座から両膝をつく姿勢にして、机に置かれた彼の手に自分の手を重ねます。
「呼吸をするのが辛くなっちゃうときもありますし、心臓が動いているのが気持ち悪くなる時だって…あるんです。
気持ちを持っているのが嫌にもなりますし、何も感じられないことが辛かったりもします。
一人になりたくなったり、淋しくて誰かと一緒にいたくもなるものなんです。
…何も、おかしいことなんかないです」
何故こんなにも必死に語っているんでしょうか。
言いたいだけ言ってはっとして、何を熱くなっているんだと恥ずかしくなってきました。
「…あ、えっと、わたし、その…」
俯いてぎゅっと目を瞑ります。
穴があったら入りたいってまさにこの状況下で使う言葉だと思います。
「ありがとう」
頭に手が乗せられて、左右に動きます。
「こんなんじゃ、格好つかないなぁ…」
笑いながら燭台切はそう言います。
「いつだって格好よくないといけないことなんか、ないです。
そんなに肩に力を入れなくても、燭台切はわたし達にとって充分格好いいですから」