第1章 空気と同じ透明から
清光を送り出して、どれだけ時間がたったのでしょうか…。
玄関の前で膝を抱えて座っています。
わたし以外誰もいないこの建物は、しーんという音が聞こえてきそうなくらいに静かで、淋しさを強調させてきます。
でもわたしは、何となくこの狐が…信用はできるけれど、信頼はできないんじゃないかと思っています。
嘘は言わないけれど何だか機械的で、言葉が通じても会話ができても、拭いきれない違和感があります。
それに…おかしくないですか?
新しく刀剣男士を…お呼び出し?した方が、清光の危険度はぐっと下がると思うし、勝率もぐぐっと上がる筈…ですよね?
刀装だって先に作らせてくれればずっと安全です。
これじゃあまるで…戦をしに行くのではなく、死に戦に行くみたいなことになっていませんか?
あの狐の急かすような言動から、強制的に清光は死線をくぐらなければいけない場面に遭遇しそうで…。
気が気じゃありません。
ただでさえ頭の中ぐちゃぐちゃで焦っているひとりぼっちのわたしを、このおうちは暖かく慰めてくれたりなんてしません。
すごく、すごーく淋しいのに…家って、こんなに冷たいものなのでしょうか?
迷うくらい広く、冷えて、空白だらけ。
泣き出しそうです。いや、留守番程度で泣きませんよ?そんなこどもじゃないですから。
『お願いだから早く帰ってきて』と、言いそびれてしまいましたが、言わなくてよかったでしょう。
不安が伝染するだけです。
わたしは頑張って帰って来た清光を迎え入れるためにどっしり構えていなければ!
足音が近付いて来ましたよ…ついに帰ってきました!
わたしは立ち上がって玄関の戸が開けられるのをじっと見て待ちます。
がらがらと横開きの扉が開けられます。
わたしは裸足のままですが木の床から石のタイルまでぴょんと下りて大きな声で、明るい声で言いました。
「清光!お帰りなさい!」