第1章 空気と同じ透明から
よくわからないけれど、白い顔にお化粧してるみたいな狐が、刀から人が出てくるーみたいなことを言い出したので、冗談かなって思いながら言われた通りにしてみたらひらひらって桜の花弁が。
本当だったんだ、と関心しつつ、わたしよりもきっとびっくりしているだろう刀から現れた目の前の人に、できるだけ優しく声をかけました。
政府がわたしにしてくれたみたいに笑って。
「加州清光」
かっこいい名前ですねぇ。
人の名前ですか。
いやいや、自分の名前もわからないわたしが言っちゃあダメですね。
でも、漢字で書くのなら全く字が思い付きません!
特に『かしゅう』の部分。
色んな漢字を並べられそうじゃないですか。
『きよみつ』は、多分『清光』ですかね?
ううん、わたし、簡単な漢字しか読めないみたいですし…考えても仕方ないでしょう。
「かしゅー…。…清光!
ええと、清光はお兄さんでいいんですか?」
髪の毛が長いので、もしかしたらお姉さんかも。
清光は首を横に振ると、柔らかい表情になっていました。
「うん。俺は男の子だよ」
「わかりました!ちなみにわたしは女の子です!
よろしくお願いします!」
政府が言っていた。
挨拶の時は頭を下げるものだって。
仲のいい人ならいいけど、基本はぺこっと少し頭を下げるんだって。
初めて会う人の時はもう少し長い間。
何だか和む、暖かい空気が流れていたところで、ひょこっと狐が割り込んできた。
「鍛刀等の説明は終わっているので、早速出陣しましょう」
明るく弾む声…には聞こえません。
可愛らしいけれど、わたしよりずっと大人な感じが。
動物の年の取り方と人間の年の取り方は違うらしいですし、そういうことなんでしょうか。
「出陣って、わたしはどうしたらいいんですか?」
ふわんふわんの尻尾をゆったりした動きで左右に振って見せてから狐は答えました。
「ただ待っていてくださったらそれでいいですよ」
…え?何て言いましたか?
「わ、わたし…することないんですか?
たくさん頑張ってお仕事するつもりで…」
言葉が思い付かなかったです。
狐は表情を欠片も変えず、つらつらマニュアル本でも音読しているみたいに答えるだけです。
「出陣に関して、あなたがすることは誰を出陣させるかを決めることくらいです。
あくまで戦うのは彼ら…刀剣男士ですから」