第1章 空気と同じ透明から
…雪花。
これはわたしの、本当の名前じゃない。
かもしれない。
「初めましてこんにちは、わたしは雪花!」
でも、これでいいんです。
本当かどうかなんて重要じゃないんです。
というよりも、わたしはそんなことを考えている余裕がないどころか、考え付きもしなかったのですから。
「あなたの名前は?」
そう笑いかける、ただのこどもです。
そう…本当に、何も知らない、ただのこどもです。
何一つ持っていない女の子です。
…でも、それも過去の話になりました!
つい数時間前ですが!
自分の住むおうちもわからなければ、自分のお父さんとお母さんの顔も、兄姉、弟に妹…いるかどうかもわかりませんし、おじいちゃんおばあちゃんも知らないしわからない。
一体生まれて何年目なのかとか、全部全部わからない。
そんなわたしを、政府が見つけて助けてくれて、住むところや生きていくためのお金だけじゃなく、お仕事もくれました。
親…とは全然違うけれど、優しさに心から感謝しました。
わたしはこれから、政府が言ってた通りの、わたしなんかにくれたお仕事…『さにわ』をするんです。
わたしの他にも沢山いるらしいこのお仕事、きっと一番役に立ってみせる!
雪花、さにわになります!