第1章 空気と同じ透明から
自分の腕の中から、すやすやと規則的な寝息が聞こえ初めて、主が眠っているのがわかった。
少し移動して、主の顔が見える位置に。
「う、…ん…」
自分が動いたのが不快だったのか、少し眉間にシワを寄せた。
素直な反応に、本当に眠っているとわかった。
「…主…」
身長は多分、ちょっと高めくらいだろうか。
身長のわりには、子供っぽい顔立ち。
…15、だと幼すぎるか。17、18とか、多分20は越えていないくらいか?
このくらいの年代は、外見の違いがあまりないから判断が難しい。
でも…見た目よりもきっと、精神年齢は下なんだろう。
いくら敬語を使っても、丁寧な言葉を選んで、落ち着いた印象をつけたいのだとしても…表情からも、ベッドが違うだけで眠れないだとか、料理の仕方がわからないだとかも、まるでこどもの反応だ。
…どうして、こんなに幼い子が、仕事だと言って…言われて、こんなことをしているんだろう。
「…んん…」
高めとは言っても自分より低く、弱そうな背丈。
肩幅も多分、狭いだろう。
指は自分より細くて、小さな手。
足だって小さく歩幅は狭い。
腕も脚も、簡単に千切れてしまいそう。
すごく失礼な所までいうと、胸などもあまり目立っていなくて、なんというか、子供の体をそのまま伸ばしたような…とまでは言わないけれど、そんな感じ。
でも、腕はこう、女の子らしくあまり筋肉がついていなさそうだし、太腿もふくらはぎも触りたいくらい柔そうだ。
本当に、どこを見ても『少女』って印象。
長い睫毛とか、大きい目とか、小さい耳とか、柔い頬とか、細い首とか…。
口が割けても、こんな失礼な話、言わないけど…。
それに、主のことを姿形で判断したりしていない。
心はバカみたいに広くて、バカみたいに裏がなくて、素直で、無邪気で…夢物語だと笑ってしまうような理想を当然のように掲げそうというか、それが当たり前と思っていそうな、白いというか、綺麗な水みたいに、硝子みたいに…空気くらいには透明な、そんな心の主だから…。
主の顔に自分の手を添えて、額と額をくっつけてみる。
「主、大好きだよ」
勿論、返事は帰ってこなかった。
近い距離で顔を見ていたら、自分は何をしてるんだと思ってきて、顔を離す。
「おやすみなさい、主…」
もう一度主を抱きしめたら、何だか眠たくなってきて、そのまま目を閉じた。