第1章 空気と同じ透明から
「あの…どうにも眠れなくて…よければ、わたしの部屋に来てほしいと思って…、いやだったらいいんです!
大きいベッドで眠るのがどうにも慣れないってだけなので!」
ならなんで来たのと言われますよね。
勿論、断られるのを前提に来たんですよ。
「あーできたら、うん、一緒に寝たい…かな」
あら?清光の反応が何だか…。
「…ベッド、寝心地悪かったとか、ありました?」
「いや!寝転んでみたら心地いいし、布団もいいし、枕もいいんだけど…寝方が、わからないというか…」
あ…確かに、今日の日常生活において、人として生きていくのに慣れていない感じはありました。
うんうんと頷いて、わたしは納得しました。
そしてもしかしてこれは利害の一致ですよ。
「じゃ、じゃあ…」
「うん、主の部屋、行かせて」
「はい!行きましょう!」
そしてわたし達はわたしの部屋のベッドに潜りこんで向かい合って寝転がりました。
布団もベッドとセットみたいで大きいので、清光のを持ってくる必要はありませんでした。
枕は持ってきてもらいましたけど。
「…清光は、眠るの…怖いんですか?」
どこか不安そうな清光に問います。
「うん…おかしいよね、体は人なのに…」
しゅんとした清光の頭に手を伸ばして、そっと撫でてあげます。
「何もおかしいことはないです。
ちょっとずつ、慣れていくのでいいんですよ。
わたしだってこうやって、ぬいぐるみと一緒でも眠れなかったんですから」
「主は女の子だし、それはかわいいところだから全然いいけどさ…俺は…」
「性別なんて関係ありません。
そういうのは、男女差別といってよくないことです。
女の子だからああだ、男の子だからこうだっていう決め付けはよくないことですよ」
清光は何とも言えないっていう、申し訳なさそうに微笑むと、わたしのことをわたしの腕の中の熊のぬいぐるみみたいに抱きしめました。
ちょっと驚いたので、わたしは咄嗟に腕を引っ込めていました。
「ありがとー…主…」
「…はい、どういたしまして」
清光はどこか泣きそうな、くぅーんと甘える動物の声のようにも聞こえました。
「そろそろ、おやすみなさい、清光」
「うん…おやすみ、主」
そのままわたしは目を閉じて、ゆっくりと眠りに落ちていきました。