第2章 ~ダメな、蜜~
聞き間違い、かと思ったから、
「え?ごめん、何て言った?」
高橋君は、
ニヤリとした表情を変えることなく
「…もう一回言って欲しいんですか?
しょうがないなぁ、先生もエロいんだから。
…昨日の夜、彼氏のこと考えながら
オナニーしましたか、って聞いたんですよ。」
返事が、出来ない。
「返事しない、ってことは、
したってことですね。ふーん、そっか。
西崎先生も、オナニーするんだ。」
「そ、そんなこと、何、いってんの。
バカなこと言ってないで、ほら、帰り…」
私の言葉など聞こえていないように
高橋君は言葉を続けた。
「昨日、俺、兄の見送りで
空港に行ってたんですよ。
そしたら、たまたま見ちゃって。
西崎先生が彼氏にしがみついて
泣きそうな顔してるところ。
人前なのに、おでこにキスされて、
もう、エッロい顔して見送ってましたね。」
…そうだったのか。
でも、だけど、人前とはいえ
おでこにキスされるくらい、
大したことではない、と思うのは
私個人の感覚で、それが教師としてどうかと
言われたら、どうなのだろうか…
そんなことを考えていたから、
しばらく、無言になってしまっていた。
その無言を、高橋君は勝手に解釈したようで。
「そっかー、先生、オナニーは、指?
それとも何かオモチャ、使うんですか?
バイブ?ローター?」
「や、やめなさい、学校でそんな言葉
使うもんじゃありません!
私はそんなこと、したって認めてないし。」
「そんなこと、って?」
ここでうっかり
“オナニー”なんて言ってしまったら、
それこそ向こうの思うつぼ。
思春期の男子高校生、頭の中は
そんな妄想でいっぱいのはず。
下手に叱るのも、気を使うのもよくない。
ここは、教師らしく、キリっとしてないと。
「ほら、帰りなさい!もう暗いし。
先生も、もう帰るから。」
「はーい。」
案外素直に返事してくれてホッとする。
「まっすぐ、帰るのよ!」
職員室を出ていく高橋君の後ろ姿に声をかけた。
高橋君は、振り向いて。
「まっすぐ帰って、先生のオナニー想像しながら
俺も自分でヤろ。先生、俺のオカズ。」
出ていく。
…パタンパタンとひきづるスリッパの音。
ガタ、と玄関の扉が閉まる音。
ホッとした気持ちとぞっとした気持ち。
その両方で私はしばらく放心状態だった。
