第1章 ~初夜の声は、さらすもの。~
立派な和室。
うちの実家だったら客間になりそう…
そんな広い和室の真ん中に、
布団が一枚、敷いてある。
眩しいほどのシーツの白さ。
「待ってろって言われたけど…」
どうやって待ってたらいいのかしら?
布団に横になって?
それとも畳の上に正座?
入口の近くに立ってた方が?
今夜が初夜だと覚悟はしていたけれど
いざとなると、
全くどうしていいかわからなくて…
柱に触ってみたり、
欄間の彫刻を見たりしながら、
うろうろしながら待っていたら
「はるか、入るよ。」
孝一さんの声がする。
いよいよ、だ。
私はいよいよ、孝一さんのモノになる。
「はい…」
ふすまが開き、孝一さんが入ってくる。
私と同じ、白い浴衣姿だし、
実家でくつろいでいるようだし、
そんな姿は今まで見たことないからだろうか。
なんだか、他人のように思える。
ふすまを閉めて歩み寄ってきた孝一さんが
私を抱きしめて。
「はるか、我が家へ、ようこそ。
さあ、僕たちの初夜だ。ここへ、座って。」
布団の上へといざなわれ、
私は抗うことなく言われた通り、
真っ白いシーツを敷かれた
布団の上に正座した。
「孝一さん、私、緊張してるけど…
よ、よろしくお願いします。」
「大丈夫だよ。
君は言われた通りのことをすればいい。」
孝一さんの言う通りに。
精一杯、妻としての最初のお勤めを頑張ろう。
そう思った時だった。
孝一さんが、大きな声で、言う。
「よろしくお願いします。」
目の前の私に言うにしては、
あまりに大きな声。
心の疑問を声にするより早く、
ふすまが、開く。
「…え?」
おじい様、お義父様、
おばあ様、お義母様、
そして、弟たち二人の順に
部屋に入ってくると
全員が布団の横に並んで座った。
女性二人は、
まだ留袖姿の正装のままなのに対し、
男性四人はみんな、
私と同じ、真っ白な浴衣を着ている。
予想外の出来事に、
頭が真っ白になる。
「こ、孝一さん?」
微笑みを浮かべた孝一さんは
ごく当たり前のような顔で言った。
「さあ、僕たちの初夜は
はるかが家族になるための夜だよ。
皆さん、今日まで長らくお待たせしました。
よろしくお願いいたします。」